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【INTERVIEW】米アップルコンピュータのナンバー2が語る、“iTunes Music Store”の可能性

2005年08月05日 00時00分更新

文● 編集部 小林久

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日本国内における“iTunes Music Store”(iTMS)のサービスが4日に始まった(関連記事)。

同日に東京国際フォーラムで開催された発表イベントの様子はテレビやインターネット媒体でも大々的に報じられ、その関心の高さをうかがわせる。編集部ではイベント終了後に米アップルコンピュータのナンバー2で、ワールドワイドのプロダクトマーケティングを担当するシニア・バイスプレジデント、フィル・シラー(Philip Shiller)氏をインタビューする機会を得た。

これまでにない完璧なサービスという自信

フィル・シラー氏
フィル・シラー氏

音楽配信サービスは国内でも5年以上の歴史があるが、市場には完全に根付いていない。その理由のひとつが、制限の多い著作権保護技術、高価な価格設定、限られたラインナップなど、ユーザーというよりは権利者の利益を中心に考えられた不自由さがあったためだ。一方、シラー氏は日本市場に向けた「完璧なサービスが実現できた」と自信を示す。

[シラー] 従来のサービスでここまで素晴らしいものはなかったと思います。Music Storeの規模は世界ナンバー1ですし、非常に広いセレクションを持ち、価格もほとんどが150円と手軽です。楽曲はシングルでもアルバムでも購入でき、再生品質を落とさずに試聴できます。さらにアーティストバイオグラフィーやiMix、Audio Book、Podcastといった驚くべきフィーチャーセットが用意されています。ここまでエキサイティングなサービスはいままで日本になかったのではないでしょうか?

シラー氏は国内版の提供にあたって、日本の顧客に合わせた多くのカスタマイズを行なったと説明した。同時に日本市場と海外の違いとしてシラー氏は「アーチストの違い」を挙げた。ヒットチャートの上で米国と共通点の多いヨーロッパ市場と異なり、日本には日本固有のアーチストがいて大きな人気を集めている。取材に際して、シラー氏は直接口にはしなかったが、こういったアーチストの楽曲をiTMSにラインアップする点(特に閉鎖的と言われるレコード会社との調整)に関してはかなりの苦労があったのではないかと想像する。



アメリカのティーンズが望むもの──それはスニーカーとiPod

インタビューに際してシラー氏が何度も口にしていたのが“Exploring & Discovering Music”というフレーズだ。これは、膨大なiTunes Music Storeのライブラリーを探検(Explorer)し、自分に合った音楽を発見する(Discover)という意味で、つまり“音楽との出会いの場”を提供するのが“iTMS”ということだ。中でも興味深いのが“iMix”という機能で、iTMS上で自分のプレイリストを公開できる。学生時代にテープやMDに入れたベスト版を友達と交換したといった経験がある読者も多いと思うが、iMixは新たな音楽との出会いや音楽を通じたコミュニケーションにもインパクトを与えそうだ。

[シラー] ユーザーは他のユーザーと音楽の情報を共有することを楽しんでくれると思います。友達に音楽を薦める手段もiTunesのようなデジタルサービスに移っていくでしょうね。大きなブレークスルーが生まれるはずです。iMixで自分の好きな曲を公開することは、他人が新しい音楽を発見するきっかけにもなります。
iMix iMix
プレイリストを共有できる“iMix”。プレイリストの右にある矢印をクリックするだけで簡単に公開できる
[編集部] 米国や海外で、iTunes Music Storeを利用している人々のバックグラウンドはどんな感じになっているのでしょうか?
[シラー] 具体的なデータは出せないのですが、音楽は老若男女誰からも愛されています。もちろん“ヤング・チルドレン”は大きな層のひとつで、彼らはiPodやiTunesに大きな関心を寄せています。米国の学生を対象に行なわれた最近の調査では、卒業のお祝いに欲しいものとして1位がスニーカー、2位がiPodという結果が出ています。
[編集部] つまりiPodの敵はナイキだということですね(笑)。“iPod”が“NIKE”のようなビッグブランドになっているのは確かです。“ファッション”という点で共通する部分も多いと思います。
[シラー] そのとおりです(笑)。しかも長い時間かけて作られたスニーカーのブランドに対して、iPodは非常に新しい。iPodやiTunesは技術をファンションやライフスタイルに、さらにはカルチャーにまで発展させました。


音楽への関心を再び喚起させたiPodとiTMS

フィル・シラー氏
イベント終了後の体験コーナーで、記者の質問に答えるシラー氏

日本は1980年代にオーディオブームを経験したが、1990年代以降音楽離れが進んでいた。しかし、iPodを始めとした携帯型音楽プレーヤーの登場によってその雰囲気には変化の兆しが見られる。ファッションの一部として若者が持ち始めたiPodが、過去の音楽ブームを体験した40~50代の支持も集めつつあると聞く。

[シラー] 同じような現象は米国でも起きています。iPodは若い世代だけでなくかつて音楽を楽しんでいたすべての世代にリーチしており、「音楽は素晴らしい」という感動を再び喚起してくれています。これは全世界で起きつつある。非常にエキサイティングなことです。

順調な売れ行きを示しているiPodだが、国内ではiPodを“私的録音補償金制度”の対象とするべきといった意見や、輸入版のCDを日本で販売できないようにするべきといった話など、iPodやiTMSの今後のハードルになりそうな問題が生じつつある。シラー氏は「後者に関してはあまり明るくない」と述べたが、著作権保護に関する考え方として下記のようにコメントした。

[シラー] 明白なのは、iPodにTaxを課すことでカスタマーが最良の利益を得られるわけではないという点です。一方、合法的なデジタルミュージックサービスをiTunes上で提供するという観点では、われわれはいい仕事ができたと思っています。ユーザーの大半は“デジタルミュージックライフスタイル”を実現する上で“法律上安心できる”ことを望んでおり、そのためには喜んでお金をはらってくれることも分かっています。合法的なデジタルミュージックライフスタイルを提供できている点は、レーベル会社などとのビジネスの上でも重要なことだと考えています。




Amazonと同じインパクトをiTMSは与える

オンラインで音楽を購入するメリットは“便利さにある”と筆者は考えている。レンタルを含めたCDショップと音楽配信サイトの違いは、開店時間や店舗に足を運ぶ手間をかけずに、欲しいときに欲しい楽曲をネットワークから簡単に入手できる点にある。書籍やDVD販売の分野ではすでに国内でも“Amazon.co.jp”がかなりの成果を上げているが、これと同じことが音楽の世界でも起きる可能性は高い。

iTMSでは上述のiMixのほかに“パワーサーチ”という検索機能、アーティストやジャンルごとにiTMSが用意した“ベスト盤”とも言うべき“iTunes Essential”、各種ランキング情報やラインアップされているすべての曲を購入前に30秒間、フルクオリティーで試聴できる機能など、新しい音楽を“開拓する”ための方法が充実している。

ウルフルズ
検索機能を提供する“パワーサーチ”トップから“音楽をブラウズ”を選ぶとジャンルやアーティスト名による絞りこみが可能

シラー氏はiTunesを利用した音楽配信サービスを「音楽を再び楽しいものにする次世代の技術で、非常にエキサイティングなもの」と表現した。日本のユーザーやレーベル会社に対するコメントを求めた編集部に対して下記のように答えた。

[シラー] iTMSによって、iPodやiTunesのユーザーはより楽しい音楽の時間を得ることができるでしょう。新しい音楽に出会ったり、お気に入りのアーチストのコンテンツをキープしたり、流行の音楽を楽しむことができます。また、iTMSは音楽産業全体にも利益をもたらすでしょう。ユーザーにとってはいままで購入したり、聞いたことがない音楽を非常に簡単な方法で購入できますし、アーティストやレーベル会社は、顧客に対して“クイックなコネクト”が可能になる最良の方法が得られることになります。
ウルフルズ Podcast
ウルフルズはiTMS用にオリジナルアルバムを提供。1曲目は「iTunes Originals」とシャウトする6秒間の短い曲PodCastの一覧も入手できる

インタビューを通じて筆者が感じたのは、iTMSに対するシラー氏の熱意と“自社の強み”を的確に認識し、それを日本市場でも確実に伸ばしていこうとしている点だった。サービスの骨組みとしてiTMSが優れていることは海外での成功を見るまでもなく明らかだが、不安要素があるとすれば、“Sony Music”など一部の大手国内レーベルがまだ参加を表明していない点だろう。

この点に関しては各社の思惑が絡んだ難しい部分だが、購入できる楽曲の選択肢が増えることがユーザーにとってメリットになるのは確かだし、逆に楽曲をユーザーの手元に届ける手段を自ら制限するというのは、レーベル会社やアーティストにとってもデメリットになるのではないかと考える。

とはいえ、iTMSの発表と時を合わせる形で、大手配信サービスの“Mora”が料金値下げと楽曲配信ルールの制限を緩和するなど国内でも活発な動きが出てきているのも確かで、佐野元春やチャゲ&飛鳥などiTMSの楽曲提供を表明しているアーチストも多く出てきた。iTMSが国内の音楽配信に与えたインパクトは非常に大きい。iTMSの登場によって音楽配信サービスの現状がどう動くのかどうかは、楽しみであり、注目していきたい事柄のひとつだ。

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