三洋電機子会社化が奏でる“ABCDE五重奏”
90年目を迎えたパナソニックが、もうひとつ踏み出した大きな動きが、三洋電機の子会社化である。
「民生用から設備・業務用まで幅広い商品群と最先端技術を持ち、それをグローバルで展開できるパナソニック。そして、グローバルシェアトップの二次電池、世界最高効率の太陽電池をはじめ、強い商品開発力を持つ三洋電機。両社の強みを融合し、世界中のエナジーニーズに応える比類なき企業グループを目指す」――。
2008年12月19日、パナソニックの大坪文雄社長は、三洋電機の子会社化を正式に発表し、その会見の席上、グループ化のメリットをこう語った。
2012年度における三洋電機のグループ化によるシナジー効果は、営業利益ベースで800億円の増益。そのうち、エナジー事業で400億円を計画。残りの400億円は、その他事業や経営体質の強化などによって創出するという。
パナソニックは、2009年度を最終年度とする中期経営計画「GP3」において、ABCDカルテット(A=アプライアンスソリューション、B=ブラックボックスデバイス、C=カーエレクトロニクス、D=デジタルAVネットワークス)と呼ぶ4つの重点事業を掲げているが、三洋電機の子会社化にあわせ、新たにEを頭文字とするエナジーソリューション事業を加え、ABCDEクインテットを重点事業に掲げなおした。
「五重奏としてパワーアップし、さらに厚みのあるシナジーを生み出す」と大坪社長は語る。
三洋電機の子会社化によって、パナソニックは企業体質を強化できるのは明らかだ。
ひとつは、パナソニック電工との連動によって実現した「家まるごと」提案に加えて、三洋電機とのコラボレーションで空調分野を中心に「ビルまるごと」の提案が可能になることだ。
2つめには、AVC、白物家電、半導体・デバイスによる「省エネ」、太陽電池や燃料電池による「創エネ」、民生用、車載用、据え置き用などの二次電池による「蓄エネ」といったトータルエナジーソリューションを提供できる企業へと進化すること。そして、2007年度実績では49%に留まっていた海外売上高比率を、63%の海外売上高比率(2007年度実績)を持つ三洋電機を取り込むことで、52%と3ポイントも上昇させることも見逃せない。グローバルエクセレンスの条件のひとつとして、将来的には、60%以上の海外比率を目指すパナソニックにとって、三洋電機の海外事業は魅力的だ。三洋電機が持つ普及価格帯商品の強みを生かし、新興国を攻略するための新たな手段も手に入れることができたといえる。
技術担当の古池進副社長は、「三洋電機のエネルギー関連技術は、当社のあらゆる商品に反映でき、ビジネスの幅を拡大でき、さらに、自前主義にこだわる当社のポートフォリオを、技術の観点からも拡大できる」と期待を寄せる。
そして、パナソニック電工との融合に際して用いた委員会活動による摺り合わせ手法は、三洋電機の子会社化でも用いることになる。両社は、「コラボレーション委員会」を発足し、経営諸制度、技術開発、調達、ロジスティクス、品質管理、ITインフラなどについて検討し、早期の協業成果の顕在化に取り組む。
だが、その一方で、関連会社約800社、従業員約40万人という規模を誇る電機メーカーの誕生だけに、重複事業や不採算事業の見直しを背景にした再編は避けては通れないといえる。
今後、この点にどうメスを入れるのかが注目される点だろう。
一方、両社に共通しているのは、環境先進企業を目指すという点だ。
三洋電機では、「環境・エナジー先進メーカー」を目指し、太陽電池、二次電池などによる環境貢献で、2020年度には、2000万トンのCO2削減効果を実現。「環境貢献だけで1兆円規模となる、環境先進企業への飛躍を目指す」(三洋電機・佐野精一郎社長)とする。
一方、パナソニックは、GP3の計画指標に、売上高10兆円、ROE(株主資本比率)10%以上の成長戦略とともに、CO2排出量を、2006年度比で総量30万トンを削減する計画を盛り込み、すべての事業活動において環境負荷削減や地球温暖化対策の加速、環境経営をグローバルに加速することを経営の重要指標としている。
「成長戦略と環境は車の両輪。環境への姿勢を示すだけではなく、実行力やその効果も測定するところに、当社が取り組む環境戦略の意味がある」と、パナソニック環境本部環境企画グループ・中村昭グループマネージャーは語る。
いずれにしろ、三洋電機の子会社化によるシナジーは、2009年度以降に現実のものになってくるといえよう。
グローバルエクセレンスを目指すパナソニックにとって、三洋電機は大きな武器となるのは間違いない。パナソニックが、この武器をどう活用するかが、これから徐々に明らかになってくるだろう。
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