打って出る
2009年の経営スローガンは、「打って出る」。これは大坪氏が社長に就任して以来、3年連続で同じ言葉だ。
「こういう時こそ、大きな成長を遂げるための仕込みの時期、経営の足腰を鍛える好機と捉え、道を切り開く姿勢が必要。グループ全員がこの想いを共有し、結束してこの危機に挑んでいく。打って出るパワー、チャレンジする風土をしっかりと育てていく」
危機は成長のチャンス。2009年度の「打って出る」の意味には、これまで以上に、危機感とともに、成長に向けた強い意思を感じざるをえない。
だが、2009年度の業績見通しは、厳しいものとなる。
2009年2月4日に発表した2008年度第3四半期連結業績の会見で、同社の上野山実取締役は、2008年度通期の連結業績見通しの下方修正を発表。連結売上高は、11月公表値に比べて7500億円減となる前年比14.5%減の7兆7500億円、営業利益は2800億円減となる前年比88.4%減の600億円、税引前損益は11月公表値から4800億円減の3800億円の赤字(前年実績は4349億円の黒字)、当期純損益は同4100億円減の3800億円の赤字(同2818億円の黒字)の最終赤字見通しとした。
2008年10月に発表した上期連結業績では、営業利益は7期連続の増益、最終利益では過去最高の黒字を発表していた同社だが、11月27日には通期見通しの下方修正を発表。さらに、2月に赤字決算への修正を発表することになった。まさに、ジェットコースター並の急降下だ。
上野山取締役は、「前回の業績予想公表後、国内外におけるより一層の市況悪化に伴う販売減や、さらなる円高の進行を受けた為替レートの見直しによって収益悪化が予想されること、さらには、この状況に対応した収益改善に向けた事業構造改革の追加実施などを見込んだことにより、連結通期業績予想を修正することになった」と語る。
なかでも、売上高の下方修正7500億円のうち、6割強にあたる4800億円の修正が、企業向けBtoB関連事業で占めているという。個人消費低迷の影響は最小限に留めているとはいえ、危機感は強い。
同社では、事業構造改革費用として、11月に公表した1550億円に加えて、新たに1900億円を追加し、3450億円を計上。構造改革の具体的な取り組みとして、国内13拠点、海外14拠点の合計27の製造拠点を閉鎖し、不採算事業の撤退および固定資産の減損、人員の再配置・削減などを実施する考えを示した。
さらに、緊急経営対策として、2009年2月から役員報酬の10~20%の返上、管理職報酬の5%返上を実施。加えて、各事業場において、管理可能経費の削減を実行する。
「2009年度も引き続き事業構造改革を断行するとともに、緊急経営対策を新たに実行し、他社よりも早く立ち直るよう経営体質の強化を図る」と上野山取締役は語る。
パナソニックは、2000年度から、中村邦夫社長(現会長)のリーダーシップのもと、大規模な構造改革に乗り出した経緯がある。
「破壊と創造」と呼ばれるこの改革では、新たな事業セグメントへの変更、モノづくり改革による超・製造業への脱皮、国内家電営業体制の改革という3つの「破壊」と、デジタルAVとモバイル・コミュニケーション分野に対して全社のリソースを集中すること、将来の成長性および収益性の確保に向けて、eネットビジネス、システムソリューションなどのサービス事業を戦略的に展開し、新たな事業基盤の確立するという、2つの「創造」が打ち出された。
破壊に位置づけられる「新たな事業セグメントへの変更」とは、いわば、創業者である松下幸之助氏が打ち出した事業部制の解体。中村会長は当時、「事業部制の枠を超え、事業特性ごとに事業をくくり直す。付加価値を生み出さない事業、競争優位にない事業、そして不採算事業、低収益事業は見直すことになる」と語り、開発、製造、販売一体型の事業部制から製造機能の分離独立や、国内外の拠点の集約、売却による資産の圧縮を断行した。
「経営理念以外、聖域はない」とする、破壊と創造は、まさに大鉈を振るう大改革だった。
その初年度に、パナソニックは4278億円の最終赤字を計上している。膿を出し切ることから、成長戦略に打って出たのだ。
今回、パナソニックが修正発表した2008年度通期見通し3800億円の最終赤字は、その当時に匹敵する規模の赤字額となる。
上野山取締役は、「2001年に実行した構造改革(破壊と創造)の時とは環境が大きく違う」としながらも、厳しい見方をする。
「金融経済に加え、実体経済も縮小に入っており、車、PC、携帯電話、AV機器といった、いずれもが縮小している。しかも、底がまだ見えない。この状況は1年以上続くだろう。2009年度は、今年度以上に厳しい年になると見ている。2009年度黒字化に向けて、成長事業での収益基盤構築、不採算事業の確実な改革および撤退、伸びる事業分野への仕込み・強化を加速することに取り組む」。
いずれにしろ、社名変更の初年度は、嵐のなかの船出となったことには変わりはない。
2008年度下期の構造改革、そして、GP3計画最終年度となる2009年度の構造改革が、これからのパナソニックを左右することになる。
次ページ「三洋電機子会社化が奏でる“ABCDE五重奏”」に続く
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