数千万人が著作者になる時代
かつては著作物を発表するには、出版や録音などのメディアが必要で、それができるのは限られたプロだけだった。しかしウェブによってだれでも著作物を発表できるようになり、著作者の概念が根底から変わったのだ。専門調査会の中心である中山信弘氏(東大名誉教授)も、こう述べている(関連記事:「BLJ Online」)。
著作権法はこれまで創作者やそれを伝えるメディアなどごく限られた人たちのものでしたが、いまやインターネットを通じてすべての人・企業にとって関わりのある法律となりました。(中略)著作権法を取り巻くプレーヤーが昔と大きく異なってきたということは、ルール自体も草野球のローカルルールからメジャーリーグのルールに変えていく必要があるということでしょう。
著作権法が分かりにくく、特定の権利者に偏した権利設定になっているのは、ごく一部のメディア関係者の「ローカルルール」だったからである。1000万人以上のブロガーが著作者になる時代には、彼らが消費者でもあるのだから「保護と活用のバランス」は彼らが考えればよい。そして彼らの圧倒的多数はフェアユースに賛成だ。JASRACがお望みなら、著作者(ブロガー)全員の国民投票で決めてもいい。
ダウンロード違法化で誰が得するのか
他方、同じ著作権法改正案では、違法複製物からの複製を著作権法30条の適用除外とする「ダウンロード違法化」が盛り込まれる方向だ(関連記事)。これもごく一部の権利者の利益のために、数千万人のネットユーザーに訴訟リスクを負わせるものだ。たとえばYouTubeが違法とされたら、日本では動画配信ビジネスが壊滅する可能性もある。
「YouTubeはストリーミングなので除外する」というのが文化庁の見解だが、私の使っているRealPlayerではYouTubeもダウンロードできる。技術的には、ストリーミングでもバッファをつくるときダウンロードするのだから、両者は区別できない。このように曖昧な法律ができると、「コンプライアンス」に過敏になっている企業では、動画サイトをすべて禁止する可能性が高い。
そもそもダウンロードを違法化することが誰のメリットになるのだろうか。JASRACは「違法ダウンロードの損害は100億円」という大ざっぱな数字を出したことがあるが、具体的なデータは何もない。仮に損害が100億円だったとしても、それによって1400万人の創作活動が阻害される損害は、1人平均1000円としても140億円だ。著作権を業界のローカルルールから、すべての国民のためのルールに変えるべきである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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