日本の電子政府は北朝鮮以下らしい
── 韓国は、ほとんどのことがネットでできてしまう。しかも、そのために非常に安全性の高い専用の暗号デバイスを銀行で配ったりしていますね。つまり、セキュリティーの確保も十分にとりながら窓口業務を軽くしている。そういう意味では、会社を休んで窓口に行く住民の手間とか、移動するために発生するCO2とか、窓口で働いている人の人件費とか、年間ではもの凄いコストになると思われます。
試算してみたいことろですが。電子政府がきちんと出来ていたら、それによって消費されるエネルギーやCO2の発生量、紙の消費量、担当者の日当や建物の管理コストなど、どれだけ削減できるかは注目すべきところです。
野口 現実世界にある窓口に行けば、待たされます。社会保険事務所では、1日中待たされることもある。いま韓国の話が出ましたが、世界の電子政府のランキングをアメリカのブラウン大学が作っています。それを見ると、日本は40位です。北朝鮮より下になってしまう。ガボンが38位、日本が40位ですね。
── ちゃんと見ているんですね。
野口 これは、ショッキングですね。ガボンってどこにあるか知らない人も多いでしょうが。
── ガボンはアフリカですね。
野口 評価の基準はいろいろあるでしょうし、ランキングもこれが唯一というわけではなく、国連がやっているランキングでは日本はもっと上位のほうに来ます。ただし、アジアではやはり韓国が評価されていますね。
── なんでそうなるんですか? ITのキーワードの1つは、電子政府なわけじゃないですか、実際にアメリカなんかは、1960年代に政府がいちばん率先してコンピュータを導入したといわれているわけですけど、日本の政府はそれができていない。
野口 コンピュータの導入は、日本の政府もしていると思いますけど、それを使うような体制になっているかどうかですね。だいたい電子政府も、本当に日本の政府が自らやっているかというと、どこかに丸投げしているんじゃないかというようなことが言われている。これは、日本の大企業の体質と同じじゃないですかね?
── 役所の中にコンピュータを分かる人がいない?
野口 いるとは思いますが、その人が組織の中で実権を振るえるわけではない。これは想像ですけれど、コンピュータに強いことが知られてしまったら、「コンピュータ使い」にされてしまうのは明かですから。役所というのは、そういう組織じゃないですか? これは、コンピュータだけではない。一昔前なら、英語ができると、役所では明かに出世の妨げですね。「英語使い」にされてしまう。
── 専門家にされてしまう。
野口 それは、日本の組織の宿命ですね。だから、能力のある人は「私は英語ができる」とは絶対に言わないのですね。
── えーっ。
野口 それはそうですよ。だって「英語使い」にされますから。
── そういうお役所の性格というものも関係しているかもしれないけど、いずれにしろ、ITの重要な柱といわれている電子政府、eガバメントに関してはかなり厳しいのが現実であると。
野口 かなりではなく、もうホープレスではないでしょうか。 でも、これは、本当に困ることなんですね。
(中編に続く)
野口悠紀雄
1940年東京生まれ。東京大学卒業後、1964年大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)取得。東京大学教授などを経て、現在早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。主著に「バブルの経済学」「戦後日本経済史」「円安バブル崩壊」などがある。