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ジェネラルパーパス・テクノロジー(中編)

ITを使えない日本は、ソ連のように崩壊する──野口悠紀雄が語る

2008年07月17日 11時00分更新

文● 遠藤諭、語り●野口悠紀雄

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著者近影
経済学者・野口悠紀雄氏(右)とアスキー総合研究所所長の遠藤諭(左)

 社会構造の写し絵──ネットワークをそう定義することで見えてくるものがある。社会主義的な「計画経済」と資本主義的な「自由経済」の違い。それが情報システムにおける「集中処理」と「分散処理」の関係と非常によく似ているというのだ。

 メインフレームからクライアント・サーバー型システムへのパラダイムシフトとソ連経済が機能低下した時期が「ほぼ一致する」のは偶然ではないと野口悠紀雄は言う。中編では、社会システムと情報システムにおける2つのパラダイムシフトについて見ていこう。



ノルマとインセンティブ


「ジェネラルパーパス・テクノロジー/日本の停滞を打破する究極手段」(アスキー新書)。野口悠紀雄、遠藤諭著。定価780円

野口 第2次大戦以降、少なくとも1960年代まで、社会主義経済が優位だったのは、間違いない事実です。宇宙開発や軍事では誰の目にも明らかでしたが、そうした分野だけではなく、基礎科学の分野でも、ソ連は世界をリードしていました。

 私は、工学部の出身ですが、我々の時代の数学や物理学の基礎的な教科書は、ソ連の教科書の翻訳や英訳の海賊版でした。つまり、ミサイルや大砲だけが強かったわけではないのです。ところが、1980年代になって、ソ連経済の病状が一気に深刻化しました。そして、1980年代末に、社会主義経済が崩壊したわけですね。ベルリンの壁が崩れたのです。この原因については、いろいろな意見があるでしょう。

── 一般にはどういう議論が多いのですか?

野口 一般に言われていることは、チェルノブイリの事故処理を見ても、大韓航空機の撃墜事件の処理を見ても、ソ連の官僚システムがまったく機能していないということですね。

── 内部崩壊的な見方なんですかね?

野口 内部崩壊なんですが、問題は、その原因です。一般に言われているのは、インセンティブの欠如です。つまり、市場経済では、働いた人が豊かになる。それに対して、社会主義経済はノルマをこなす社会で、それ以上に働いても豊かにはならない。だから、働くインセンティブが欠如している。これが多くの人が指摘している点です。事実、そういう部分もあった。ただ、それだけではなくて、情報面の問題があった。

── 実は、もっと大きな問題があった。

野口 そう思いますね。さきほどの話に戻れば、中央集権的な情報処理シテステムと中央集権的な計画経済は、整合性がとれていた。事実、コンピューターの面でも、1950年代、1960年代のソ連のコンピューターは、そんなに遅れていたわけではなかった。

── 日本よりも早い時期にコンピューターを完成、稼働させていますからね。

野口 科学技術用のメインフレームでは、IBMに匹敵できるものもあった。アメリカのコンピューターに比べてそれほど遅れていなかった。それが、1980年代になって非常に遅れてくるんですね。

── しかも、コピーになってくる。

野口 コピーになるし、IT的なコンピュータの使い方ができない。工場をはじめとする末端組織は、政府から命令されたことを実行するだけで、自分で計算をして考えてはいけないんですね。つまり、末端組織が情報処理をやることは、そもそも否定されている経済なんです。ところが、分散処理的な情報処理システムとは、末端が考えて決めるシステムなんですね。ソ連のような社会で、個々の企業、個々の工場、個々の家計が、PCを持って自ら計算をして決定するというのは、そもそもありえないことなのです。そんなことが行なわれれば、計画経済の否定になる。だから、ソ連で、IT革命が起こるはずはなかった。ソ連経済の機能の低下と、情報処理システムの変化は、だいたい時期が一致しています。

── 1980年代中から1990年頃にかけて、それは、偶然に同じ時期だったというのではないということですね。

野口 日本の経済システムは、ソ連ほどではないけれども、ソ連に似た面がある。計画経済ではないけれども、大企業が大きな決定を行なう。それは、メインフレームのコンピュータシステムに似ている。だから、日本は新しいGPTのシステムに対応できなかった。だから、ソ連のように崩壊したわけではないけれども、現在にいたるまで低迷を続けている。

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