日本の政府や大企業はメインフレーム的である
── 日本の社会組織は、中央集権的なメインフレーム的なものとの親和性が高い。それに対して、市場経済は、ITの情報処理、つまり、クライアント・サーバー型のような分散型のシステムと親和性が高い。
野口 クライアントは、市場経済における個々の企業や家計に相当する。彼らは、自ら情報処理を行ない、自ら決定する。サーバーに相当するのは、市場経済で「オークショネア」と経済学者が呼ぶものです。
例えば株式市場のように、さまざまな需要と供給を調整する主体ですね。オークショネアは、能動的な判断をしているわけではないのですね。単に個々の経済主体の需要や供給に受動的に反応しているだけ。だから、中央計画当局とは非常に違うのです。日本やソ連の中央集権的な社会システムとアメリカの市場経済との対比は、メインフレームとクライアント・サーバー型システムの対比に似ている。
── 今回の本の中で、もちろん網羅的にいろんなことを語るという方法もあったと思いますが、とくに電子政府について言及しています。日本とアメリカの電子政府を比較していますよね。もちろん、日本の基幹系の情報システムが、日本経済の低迷に影響を与えているとすると、それは、銀行から流通からあらゆる企業がありますよね。しかし、ここでは政府の情報システムについてだけは実体験をもとに書かれていて、それが凄くリアリティがあります。
野口 電子政府は、日本もアメリカも、実際に見ることができますからね。電子政府の役割の1つは、行政手続きなどです。それを電子政府でどうやってくれるか? アメリカでは、かなりのことまでやってくれる。たとえば、免許証を書き換えるときに、すべてインターネットでできる。
ところが、日本で免許証の書き換えは、試験場か所定の警察署に行かないと、できない。だいたい半日くらいつぶれますね。私は、スタンフォード大学にいたときに、免許証の切り替え期限が来て、そのために帰国しました。アメリカの免許証なら、パソコンに向かってあっという間に出来ることを、わざわざ飛行機に乗って日本に帰らないとできない。これは、非常に象徴的なことといえます。
ところで、日本の電子政府の総合窓口には、本来であれば、電子政府でできる仕事が書いてあるはずですね。
── 一応そういう窓口となるサイトがありますよね?
野口 そのように見える窓口が確かにあります。そこには、さまざまな手続きが書いてある。例えば、免許証の書き換えもある。しかし、よくよく読んでいくと、「この手続きは窓口に行け」と書いてある。窓口というのは、コンピュータの上にあるウィンドウではなくて、現実世界に存在する役所の窓口のことです。そこまで実際に時間をかけ足を使って行かなければならない。そんなことなら、わざわざ書いてなくても十分承知しています。
私は、日本の電子政府は「おもちゃ」だと書きましたが、おもちゃと言われても仕様がない現状ですね。