試合後は専用機で移動
ロスが壮大な野望に燃える影で、違うベクトルで燃えている男もいた。イタリアの得点王ジョルジュ・キナーリャだ。強烈なエゴをむき出しにし、チーム内では孤立するも、トップのロスには露骨にすり寄り、人事にも口を出すようになる。
自分の言いなりとなる監督を就任させ、最終的にはニューヨーク・コスモスのオーナーにまで登りつめる。まさにアメリカンドリーム。同僚にはなりたくないが、異常なほどの上昇志向は見習うところが大きい。
ロスの目論見は見事に当たり、ニューヨーク・コスモスは大躍進を続け、サッカーブームを牽引する。専用機で移動し、試合が終わったら伝説のディスコ「スタジオ54」でどんちゃん騒ぎ。少し前まではセミプロに毛が生えた程度のサッカー選手たちは、いつの間にかロックスターのような生活を送るようになっていた。
だが、ニューヨーク・コスモスの成功に惹かれて参入してきたチームにはペレもいない、ベッケンバウアーもいない。昔のニューヨーク・コスモスのようなセミプロレベルの選手しかいない。リーグの水準は下がり、ファンは次第に離れていく。
追い打ちをかけたのは「アタリショック」
当時圧倒的なシェアを誇っていたゲーム機「Atari 2600」に、多数のサードパーティが参入。ゲームの水準が下がり、一気に消費者離れがおこってしまった。稼ぎ頭だったアタリも、サッカー北米リーグと同じ理由で衰退してしまう。子会社アタリの不振によりワーナーも収益が悪化。スーパースターを養うだけの体力がなくなってしまう。
リーグは消滅してしまったが、ニューヨーク・コスモスはアメリカにサッカーの種をまいた。ロスが子供じみた野望を持たなかったら、アメリカでW杯は開催されてなかったかもしれないし、あのペレが出演した名作「勝利への脱出」も生まれなかったかもしれない。
レアルマドリードやACミランにも通じるスーパースター軍団を、70年代に作りあげた経営者としてのひらめきと判断は敬服に値する。サッカーファンならずとも楽しめるはずだ。
■今週のおススメDVD(Amazon.co.jp)
- ペレを買った男(おススメ度:★★★★★)
- 54 フィフティ★フォー(伝説のディスコ、スタジオ54を舞台にした映画 おススメ度:★★★)
- E.T.(「E.T」のゲームはアタリショックの代名詞とされている おススメ度:★★★)
- 勝利への脱出(サッカー映画の金字塔 おススメ度:★★★★)
※おススメ度は基本的に5つ星評価
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