MADムービーは三重、四重の著作権侵害
── テレビ局は、著作権侵害についてどう見ていますか?
津田 著作権侵害コンテンツの問題は複雑で、ニコニコ動画では不正アップロードされた動画をそのまま見る人もいれば、その動画を素材に使ってMADムービーを創作していくという人もいます。このMADムービーは昔から存在していましたが、ネットで簡単に発表の場や、お互いに素材を提供し合うような環境が整ったことで独自の発展を遂げてきました。
しかし、MADムービーは、著作物の複製権※1や送信可能化権※2だけでなく、二次使用の権利や人格権※3といった権利までも侵害しています。個人的にはネットならではの面白いカルチャーだと思いますが、テレビ局や権利を持っている事務所やレコード会社から見たら、ニコニコ動画はそうしたいろいろな権利を侵害しているため、表向きにはとても認められる存在とは言えないでしょうね。
今までの判例から考えても、仮にニコニコ動画の著作権侵害について裁判を起こされた場合、日本では恐らくサービスそのものが違法という判決が出るのではないでしょうか。
※1複製権 著作物をコピーできる権利で、この権利を有する者以外が複製するときには複製権者の許可が必要になる。ただし、私的複製(個人や家族が楽しむ目的で行なう複製)の場合は、許諾なしでもコピーできる
※2送信可能化権 インターネットなどで、著作物を入手可能な状態にする権利のこと
※3人格権 著作者人格権のこと。著作者であることを表明できる「氏名表示権」や、著作物の改変を禁じられる「同一性保持権」などの権利を含む
── そうした状況なのに、なぜニコニコ動画を運営しているニワンゴは訴えられなかったのでしょうか?
津田 いくつかの要素はあると思いますが、基本的にサービス開始当初から「著作権侵害上等!」というスタンスでは運営してませんでしたよね。
少なくとも表向きには著作権侵害コンテンツを肯定するようなことはしていませんでしたし、権利者に対する削除ツールなども提供してきた。その上で権利者からのクレームに対して「著作権侵害は認めない、著作権使用料も払います」と言い続けたことで、うまくこの1年、生き長らえてこられたのだと思います。
あとはドワンゴの筆頭株主が、音楽業界で有名なエイベックスということも影響したんじゃないでしょうか。要するに権利者と近いところでサービスをしていたということですね。
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