豊富なカタログの中から好きなアーティストを選んで、1曲丸ごと無料で聴ける──。英ラストエフエムは1月23日、同社が運営するインターネットラジオを応用したSNS「Last.fm」にて、そんなオンデマンドストリーミングサービスを開始した。
サービス提供地域は、米国/英国/ドイツの3カ国。4大メジャー(ユニバーサル、ソニーBMG、ワーナー、EMI)や、15万のインディーズ/独立したアーティストを含む、Last.fm上の全トラックが無料配信の対象だ。再生は、各曲3回まで可能だ。
1曲丸ごとの無料配信というと、日本でもSNSの「MySpace」が実施しているが、両サービスは何が違うのか。また、この種のサービスが、日本発で出てこないのはなぜだろう。ジャーナリストの津田大介氏に事情を聞いた。
【解説】Last.fm
アーティストや曲を検索し、ウェブブラウザー上のFlashプレーヤーなどで音楽を試聴できるSNS。ローカルのパソコンやiPodで再生した曲のログをLast.fmに送信することで、再生ランキングを調べたり、お勧め楽曲リストを見ることが可能だ。
レコメンドの仕組みが強力で、例えば、選んだアーティストだけでなく、似たアーティストのお勧め曲もまとめて連続再生できるラジオ機能を備えている。なお、Last.fmの日本版では、音楽のストリーミング配信はいっさい提供されていない。
テレビやラジオと同じビジネスモデル
── Last.fmの新サービスで何に注目していますか?
津田 広告収益によって1曲まるごとのストリーミングを実現したという点が面白いですよね。
Last.fmは、もともとネット時代の新たな「試聴メディア」としてスタートしました。iTunesなどで再生した楽曲の履歴をLast.fmにアップロードすることで、そのデータを元にお勧めの楽曲を表示してくれます。また、レコメンドされた楽曲を「試聴クリップ」として保存したり、ストリーミングのネットラジオ番組を作ることも可能です。
それを一歩先に進めて、広告収入によって無料でフルに聴けるストリーミングサービスを実現したというのがスゴいですね。
音楽配信はいろいろ登場していますが、ネットで好きな曲を合法的に聴こうと思うと、1曲ごとにお金を払ったり、定額制のサービスに加入する必要がありました。しかし、Last.fmの新サービスを使えば、無料でかつフルに楽曲が聴けるようになる。
ビジネスモデルとしては、テレビやラジオと同じ広告収入ベースにはなりますが、オンデマンドで行なえる、というところが新しい。ネットの魅力は時間に縛られずオンデマンドでコンテンツを楽しめるところにあるわけですから、そのよさを殺さずに広告収入ベースで楽曲利用料を支払う合法試聴スキームを構築したのは素晴らしいな、と。
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