人材派遣業界トップに躍り出た リクルートの視野にあるものは
偽装派遣や二重派遣などの不祥事は、グッドウィルに限った話ではない。同じく軽作業の派遣・請負を手がけるフルキャストも、労働者派遣法が禁じている建設業や警備業への労働者派遣を繰り返したことで、度重なる業務改善命令や業務停止命令を受けている。また、家電量販店における常駐販売員の偽装請負や二重派遣(注2)なども発生している。こうした問題をはらみつつも、人材派遣各社は拡大を目指し、企業も派遣社員を求めている。
注2:二重派遣
派遣元(派遣会社)から派遣先に派遣されている派遣社員を、さらに顧客先などに出向させ、就業させることをいう。
厚生労働省の発表によると、2006年度の人材派遣市場は5兆4189億円(前年比34.3%増)にまで成長。企業が経費節減していることから、派遣社員の需要も増していることがうかがえる。この10年間、各企業は人員削減を行ない、派遣労働に関する規制緩和が繰り返された。その結果、企業は人手不足が深刻化し、派遣で働ける業種や職種は拡大。今や派遣社員は、企業にとって不可欠な存在なのだ。
とはいえ、景気回復によって一昨年あたりから企業が正社員の雇用を強化する動きが加速しているのも事実。さらに、人口減少の影響で派遣企業は人材確保が難しくなりつつある。また、アデコやマンパワーなど遥かに大規模な外資系企業も、好調な日本の市場を見逃すはずがない。実際、スタッフサービスの入札には、マンパワーも参加したと伝えられている。
このように生存競争が激化する人材派遣業界においては、人材を安定して確保できる企業規模が不可欠となる。それこそが、リクルートが買収に動いた要因であろう。かたやスタッフサービスは、発行済み株式の8割を創業者が保有する個人資本経営だったため、リクルート傘下となることで企業力を高める狙いがあったと考えられる。
スタッフサービスは全国に拠点を持つ上、事務職だけでなく技術者やIT関連での人材派遣も強いという特徴がある。そしてリクルートは社員育成や派遣社員の満足度に定評があるだけに、今回の買収では単なる規模拡大にとどまらない大きな優位性を得たことだろう。ただし、アキレス腱がないわけではない。昨年、スタッフサービスのグループ会社のテクノサービス九州が、提携先と派遣期間の偽装契約を交わしていたことが発覚している。こうしたことが継続的に行われているとすれば、いかに大規模になろうとも足元をすくわれるだろう。人材派遣業界の勢力図は、まだ長期安定の様相を見せてはいない。
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