風車
我々タンジブル・メディア・グループが最初にデザインしたアンビエントディスプレーは「風車」(Pinwheels)※1である。
※1 「風車」(Pinwheels)についての詳細は、ダーリー/ヴィズネスキー/石井による論文「Water Lamp and Pinwheels: Ambient Projection of Digital Information into Architectural Space」に詳しい http://tangible.media.mit.edu/papers/Ambient _Fixtures_CHI98.php
もともと、「太陽風」を自分の研究室の空間で感じたいという夢からこのプロジェクトはスタートした。太陽から地球に降り注ぐイオン化した粒子の風──その太陽風を風車を回す風に見立てて表示しようと考えた。
大切なのは、特別な注意を払わなくても風車が回っていることを周辺視やかすかな回転音で気配として感じ取れることだ。意識的に風車を見に行く必要はない。
情報は常に意識のバックグラウンドで表示される一方で、もしその回転が突然速くなったり止まったりすれば、自然とユーザーの意識を引くことになる。すなわち、ユーザーの意識のフォアグラウンドに情報が移動する。そのあとで必要があれば、ユーザーはパソコンを起動してインターネットからより詳細な情報をチェックすればいい。
コンセプトから商品への展開
現在のパソコンの情報表示は、基本的にユーザーの意識のフォアグラウンドを対象としており、ユーザーは意識的にその情報をデコードして理解し、決断を経て何らかの行動を取る必要がある。ところが、一般的なパソコンで利用できるスクリーンスペースや、人間の視覚的な注意力はともに限られていて、多くの情報ソースに対して同時に目配せすることは困難なのである。そのために、パソコンやウェブブラウザーを必要とせず、ユーザーの認知負荷を抑えた新しいタイプの専用ディスプレー群を我々はデザインし始めた。
現在ではそのコンセプトが商品となり、メディアラボのスタートアップ会社である米アンビエントデバイス社※2を中心に世に送り出されている。彼らの商品群の中では、「アンビエントオーブ」が最も有名だろう。
※2 アンビエントデバイス社の技術的な原点は、レスナーが当時のクラスでタンジブル・メディア・グループの学生アンジェラ・チャンらとともに開発した「LumiTouch」というプロジェクトにある。詳細は、次の論文「LumiTouch: An Emotional Communication Device」を参照のこと http://tangible.media.mit.edu/papers/lumito uch_CHI01.php
(次ページに続く)
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