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アトムのスピード、ビットのスピード

2007年12月03日 01時32分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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アトム輸送の非効率


 ここのところ出張が続いている。2006年11月は中旬に日本出張から戻り、時差ボケを直す間もなく翌週にギリシャに出かけた。アテネで開催された国際会議「CULTURAL CONVERGENCE & DIGITAL TECHNOLOGY(文化遺産とデジタル技術)」での講演に招聘されたのだ。さらに年が明けて1月には、ロンドン、シンガポール、そして東京と、「世界一周出張の旅」が待ち受けている。

 出張するたびに思うことのひとつは、身体+荷物という「アトム」を空間輸送する手段の非効率性である。デジタル情報(ビット)なら世界中に一瞬で転送できるこの時代、質量と容積を備えた「モノ」を輸送するには、莫大なエネルギーと時間、そして金銭を要する。

「9.11」以降は、空港での厳重なセキュリティーチェックがその非効率に拍車をかけている。チェックの際に靴を脱ぐといった程度では済まされず、種類のいかんを問わず液体の機内持ち込みまで禁止。前回の日本出張では、大吟醸冷酒を成田空港で買い込み米国行きの飛行機に乗るという、密かに楽しみにしていたプランまであきらめざるを得なかった。



空港での無為な時の流れ


 フライトが遅れると空港内で過ごすことになるが、この時間のむなしさには目も当てられない。失われるのは時間だけではない。大切なビジネスの機会まで失われてしまう。

 吹雪のような悪天候が理由なら、まだ理解できる。しかし、前回の日本出張ではボストンからデトロイト経由で東京に飛ぶ予定だったが、ボストン発デトロイト行きの飛行機が遅れ、その結果デトロイト発東京行きの便を逃してしまい、言葉を失った。その遅れた原因というのが、あまりにもナンセンスだったからである。

 航空会社の窓口によると、ボストンからデトロイトへ飛ぶ機体は、その前にミネアポリスからボストンへのフライトに就いていたという。しかし、ミネアポリスを飛び立つ前、外部委託先のケータリング会社がソーダ水を予定時刻までに納品できず、その結果ミネアポリスでの出発時刻が遅れ、ひいてはボストンからデトロイトへのフライトも遅れたというわけだ。

 ソーダ水のために、20人あまりの乗客が東京行きの便を逃す始末……。話はこれでは終わらず、後日空港会社から届いた謝りの手紙によると、「安全第一を守るために、やむを得ず遅延が発生した」と説明されていた。これを見て、再び絶句である。

 今回の遅延はあまりにもお粗末な人災だったが、それが人災であろうと天災であろうと、空港での空虚な待ち時間を建設的な時間に変えられれば、その怒りも少しは和らぐはずである。そのために必要なのは、ノートパソコン、電源、Wi-Fi環境。しかし簡単に手が届きそうでいて、これがほしい場所ではなかなかそろわない。

 愛機のPowerBook G4は常に携帯しているものの、電源を探すのにひと苦労。欧州では電源コンセントの形状が異なるので、ちゃんと変換アダプターも持参していないと泣かされる。さらに、Wi-Fiに至っては、本来どこでも自由に使えてしかるべき国際空港であっても、その実態は非常に情けない。使える場所が限定されているか、法外な利用料を請求されるか、技術的なトラブルでつながらないか──往々にしていずれかの状況に陥ってしまう。

 11月末のギリシャ出張では、チューリッヒ国際空港で4時間あまり乗り換え時間があったので、航空会社のラウンジで仕事をしようと勇んで乗り込んだ。しかし、驚いたことにWi-Fi設備が整っていない。しかも、テーブルに来ているはずのイーサネットケーブルは、そのほとんどが壊れていたり失われていたりして、やっと1本だけ使えるケーブルを見つけたときは、すでにほかの利用者に占拠されていた。結局むなしく、たまっていた電子メールをオフラインで編集するしかなかった。


(次ページに続く)

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