ニューヨークのアート鑑賞へ
'06年の暮れに、ニューヨークへ足をのばした。ボストンからアムトラックで約4時間、到着したニューヨークのペン駅周辺は、折悪く大規模なデモ行進でひどくごった返していた。延々と続くデモ行列を横切ることができず、いったん地下鉄の駅に降りてから道の反対に出て、ダウンタウンのホテルに向かわなければならなかったほどだ。
その雑踏の中、改めてニューヨークの人種の多様性に驚いた。普段自分の生活しているMITキャンパスとは大きな違いである。
今回のニューヨーク訪問の目的は、デザインとアートの鑑賞。遅ればせながら、新しく生まれ変わったMoMA(ニューヨーク近代美術館)を見るのがメインイベントだったが、それは2日目の楽しみにとっておき、初日はソーホー地区のショップやギャラリーを歩いた。
最初の目標は、グッゲンハイム美術館の分館。しかし、いくら探してもあるべきその場所に美術館が見当たらないのだ。私が最後に訪れたのは'97年なので10年ほど経ってしまっているとはいえ、愕然とした。グッゲンハイム美術館の分館があったはずの場所には、ファッションブランドのお店がある。店員に尋ねると、かなり前に美術館は閉鎖したとのことだった。
以前この美術館を訪れたときは、岩井俊雄をはじめ第一線で活躍するメディアアーティストの作品を鑑賞できたのに、いまやその跡形もない。とても残念なことだ。
インゴ・マウラーの詩的な照明
気を取り直してその次に目指したのはインゴ・マウラー※1の照明ショップ。5年前にソーホーを歩いたときの記憶をたよりに、彼のお店を探した。少し道に迷ったが、お店はちゃんと前と同じ場所にあった。
※1 インゴ・マウラーの直営店の所在地は、「89 Grand St., Corner of Greene, New York, NY 10013」。彼の作品やプロジェクト、作品の取扱店などの情報は公式ウェブサイト参照のこと:http://www.ingo-maurer.com/
インゴ・マウラーは、その詩的な照明デザインで有名である。彼のデザインした天使の羽を持った電球を、初めてヨーロッパで見たときの新鮮な驚きはいまも忘れられない。
電球という光子を発する「モノ」を、まったく違う詩的な「オブジェ」の次元に変えてしまう、彼のマジックに感動を覚えた。新しい技術を追求しながらも、技術に決してのめりこまず、ユーモラスに技術と遊ぶゆとりが彼のデザインにはある。それが、彼の表現の詩的な奥深さにつながっている。
通りの角からショップに入ってすぐ目に飛びこんで来たのは、この天使の電球たちが飛翔する下に無数のミニチュア人形が集っているという、不思議なディスプレーだった。そこに語られている物語の豊かさは、万人を思わず立ち止まらせる力を放っていた。
ショップの地下には、柔らかい和紙を使ったインゴ・マウラーの照明がたくさん並び、「光子と繊細なマテリアルのダンス」とも言うべき作品を堪能させてもらった。記念に、彼の人と作品を紹介した「Ingo Maurer」という本を購入したことを付記しておく。
(次ページに続く)
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