SEをはじめとするIT技術者は、とかく横文字やカタカナ語を使いたがる傾向がある。その中でも、よく会話に出てくる単語が「layer」だ。「今はそのレイヤの話をしているのではありません」「レイヤごとに切り分けをしないと」などと使われているが、そもそもどのような意味の言葉なのか。layerを「リーダーズ英和辞典」(研究社)で調べた。
layer
層、階層
海外のエンジニアは、layerをどのような場面で使っているのか。次の英文で確認してみよう。
TCP/IP is designed around a simple four-layer scheme.(TCP/IPはシンプルな4階層の構造で設計されています)
layerという単語がITの業界でこれほど一般的に使用されている理由は、TCP/IPというネットワークプロトコルがlayer(階層)という考え方に基づいて設計されていることにあるだろう。現在のネットワーク通信構造を支える根幹的な考え方であるlayerとは、コンピュータやネットワークシステムに求められる機能やプロトコルを複数の階層によって分類するというものである。各階層が持つ機能を明確にすることで、それぞれの階層が自分の役割を上手く果たすことに集中できるようにしている。
国際標準化機構(ISO)によって制定された「OSI(Open Systems Interconnection)」では、コンピュータの持つべき通信機能を7階層に分け、各層ごとに標準的な機能を定義している。
- 第1層(物理層)
- データの電気的な変換や機械的な作業を行なう
- 第2層(データリンク層)
- 通信相手との通信方法を規定し、エラーを検出する
- 第3層(ネットワーク層)
- データの通信経路の選択やアドレスの管理を行なう
- 第4層(トランスポート層)
- データの圧縮やエラーの訂正、再送制御などを行なう
- 第5層(セッション層)
- データの送受信のための経路の確立や解放を行なう
- 第6層(プレゼンテーション層)
- 上下の層から送られてきたデータのフォーマット(文字コードや画像形式など)を管理する
- 第7層(アプリケーション層)
- データ通信を利用したサービスをプログラムやユーザーに提供する
このようにネットワーク構造に使われるlayerが一般化され、日本のIT業界でもさまざまな場面で使われるようになったのだろう。ここで注意したいのが、IT英語のlayerはあくまでも「階層状に役割が分離された構造」といった意味を表し、上下の階層はあっても、そこに優劣をつけるニュアンスはほとんどないことだ。ところが、日本語──特に非技術者の会話で使うレイヤには「レベル」や「hierarchy(ピラミッド型の階層制、階級制)」というニュアンスがしばしば含まれ、暗に1つの体系の中での上下関係を意図していることが多い。
たいていのエンジニアはlayerを本来の意味で把握しているだろうが、非技術者も同じように把握しているとは限らない。非技術者とコミュニケーションを図る機会のあるエンジニアは、そうした理解の食い違いに気をつけよう。
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Illustration:Aiko Yamamoto

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