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おとなの社会科見学 Web版 第2回

企業における情報セキュリティ術を富士ゼロックスに学ぶ

2007年05月23日 00時00分更新

文● 山崎マキコ

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バイタル・レコード・マネジメント

VRMは転ばぬ先のぶっとい杖


 それと、本誌では語りきれなかったんだけど、情報を保護するという意味では、富士ゼロックスには「バイタル・レコード・マネジメント(VRM)」という、重要文書を保護しようという取り組みがあって、これも危機管理意識から生まれたもの。本誌とも重複するけど、なぜこのバイタル・レコード・マネジメントが始まったかというと、阪神淡路大震災のときに神戸支社の入っていたビルが半壊して、そこから膨大な契約書を命がけで運び出したという経験から来るもの。この取り組みも、「経験に裏打ちされている危機管理意識」ってやつをひしひしと感じさせるものだった。

 富士ゼロックスでは重要書類の電子化を組織的に進めていて(発足当初で約20名、最終的には80名あまりの人員がこのプロジェクトに参加した)、たった2年間で約2500万枚の重要文書をデータ化したという。で、電子化が済んだ重要文書は、場所は明かせないけど、地震などの自然災害に強いとされる某所に退避させてしまう。この退避させる作業を、富士ゼロックスでは、

「疎開させる」

 と表現していたのが、とても印象的だった。ちなみに、バイタル・レコード・マネジメントの責任者のひとりである渡部氏に伺った、その取り組みの流れを一部ご紹介すると、 「まず、その書類自体が本当にバイタル(重要)かどうかの認定が必要になるわけですが、その認定を誰が下すのかということについても、責任者を決めておかなくてはなりませんでした。結果的にはそれぞれの部門長にお任せしますとしたのですが、バイタルだといわれたもののうちの4割ぐらいは違いましたけどね。逆に、3割ぐらいが当初のバイタル認定から漏れていた。これも“バイタルとは何ぞや?”の部分を明確にしていたからこそ判明したことですが。

 そしてなにより重要なのが体系図ですね。この体系図自体もノウハウのひとつです。で、次がデータ作成の登録。仕様書が今回約400案件以上あったのですが、一件ごとの設計図を作らなくてはいけなかったんですね。スキャンをするだけでは意味がなくて、電子化した文書を検索できることが大前提、そして文書内のどの項目を検索対象にすればよいのか、などなど。要はデータ化うんぬん以前に、“検索可能な電子文書としてスキャンできるような紙書類の書式(設計図)”をまず決めておく必要があったというわけです」

 もしかしてバイタル・レコード・マネジメントのために、契約書とか稟議書とか何百種類もの書類の書式を再設定したってこと……? すんません。なんか気が遠くなってきたのですが。
「これがまた大変でして。当然、設計図を間違えるとすべてが無駄になってしまいますし、1案件ごとに電子化費用も違いますから、全件見積もりをとりましたよ。作業工程もだいぶ明確にしました。普通、スキャンの工程を作ったとしても、せいぜい2、3工程だろうと思うかもしれませんが、我々の場合は全53工程でひとつの案件が完成するんです。バイタルを守るという部分だけでなく、ツールとしても使わなくてはなりませんから」

 正直、細かいところまでは到底理解不能なお話だったんだけど(こういうとき、実務の経験がないのは痛い。でも普通の会社員が聞いても常識の外に位置してる話だと思う)、とにかく文書を管理するにあたっての膨大なノウハウが「ドキュメント・カンパニー」と呼ばれる富士ゼロックスにはあった、ということだけは理解できたのであった。もうひとつ付け加えると、重要文書には当然のように社員ひとりひとりに対するアクセス権の設定が必要になってくるわけだけど、これなんかは部署異動で毎月のように変わるものなので、このへんの対処もノウハウのひとつなんだそうな。いやもう、えらい徹底ぶりだったよ。

 それにしても取材後にしみじみと思ったのは、

 「アスキーのパソコン盗難事件は、
  ほのぼのとしていた時代に起きていたのが
  不幸中の幸いだった」

ってこと。

 日本版SOX法なんて影も形もないどころか、下手するとパソコン内のデータに価値があるってことすら認識されていなかった時代の話だからねえ。

 いまなら持ち主は即日懲戒免職、上司は左遷、取締役は減給、社長はテレビカメラの前でお詫び三昧……ぐらいで済めばいいほうだもんね。

 今後ますます重要になっていくであろう情報管理術。転ばぬ先の杖を欲している会社は、まず富士ゼロックスの門を叩いてみてはいかが?

 それでは皆様、本誌でお会いしましょう。

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