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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第313回

アマゾンに公取委が“ガサ入れ” 調査の進め方に大きな変化

2024年12月10日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 アマゾンジャパンを相手に、公正取引委員会(公取委)が調査を進めている。

 公取委は2024年11月26日、同社がECサイトの出品者に対して、値下げを強いるなどした独占禁止法違反の疑いがあるとして、立入検査に入った。公取委が公表した情報によると、出品者にとっては商品が「おすすめ出品」のスペース(カートボックス)に掲載されることが売上に大きく影響する。アマゾンは出品者に対して、おすすめ出品として商品を掲載する条件として、楽天市場やYahoo!ショッピングといった競合他社のサイトに出品している同じ商品と比べて、価格を引き下げることを強いていた疑いがある。

 さらに、おすすめ出品に掲載される条件として、アマゾンが提供する商品の発送サービスを利用するよう求めていた疑いがあるという。公取委は、公式サイト上に「情報提供フォーム」を設置し、値下げや発送サービスの利用に関する情報を広く募集している。

 公取委が立入検査に入る前日の11月25日には、経済産業省が公取委に対して「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(透明化法)に基づき、措置請求をしている。調べてみると、価格の決定をめぐるアマゾン側と出品者のやり取りは、経産省の「モニタリング会合」でも議論が重ねられている。

 立入検査はいわゆる「ガサ入れ」の一種だ。関係する当局からは、ごくわずかな情報が限られたメディアに小出しにされるだけで、ひっそりと手続きが進むものだった。しかし、今回のアマゾンの事案では、経産省の公開の会議の場で出品者から寄せられた問題点が指摘され、アマゾン側も公開を前提として疑問に反論している。公取委もウェブサイトで広く違反行為に関する情報を集めている。デジタルプラットフォーマーが力を増す中で、秘密主義の色彩が濃かった当局の「調査」も、大きく変化しているようだ。

問題とされた「おすすめ出品」の仕組み

 今回の問題を考えるうえで、まずアマゾンの「おすすめ出品」の仕組みについて理解しておきたい。アマゾンで「おすすめ出品」に該当する商品を表示させると、同じページに「カートに入れる」という黄色のボタンと「今すぐ買う」というオレンジ色のボタンが表示される。簡単に購入の手続きを完了させられるため、商品の売上の増加に直結する。

 反対に、商品「おすすめ出品」に該当しない場合は、次のような説明が表示される。

「『おすすめ出品』の要件を満たす出品はありません」「以下のような出品が「カートに入れる」ボタンが付いた「おすすめ出品」として取り扱われます」

・競争力のある価格設定

・信頼できる配送オプション

・満足度の高い顧客サービス

 公取委が違法の疑いがあると判断したのは、まさにこの機能だ。「競争力のある価格設定」は、楽天市場やYahoo!ショッピングと比べて競争力のある価格を意味する。「信頼できる配送オプション」と「満足度の高い顧客サービス」の要件を満たすには、アマゾンが提供する「フルフィルメント by Amazon」(FBA)というサービスの利用を利用しなければならない。このFBAは「受注、梱包、発送、カスタマーサービス、返品対応のすべてをAmazonが代行」するサービスだ。

 FBAを使って、競合他社に出品している同じ商品よりも価格を安くする。この要件を満たさないと、「おすすめ出品」にはしてもらえない。この仕組みについて、公取委は、出品者の事業活動を制限し、独禁法に違反する疑いがあるとしている。

立ち入り検査の容疑は、公開の場でも議論されていた

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