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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第303回

「世界一AIフレンドリーな日本」石破新総裁のデジタル政策

2024年10月01日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 石破茂氏が新しい自民党の総裁になった。2024年10月1日には臨時国会が開かれ、石破氏が首相に選出される見通しだ。

 自民党総裁選が開かれた9月27日、筆者はかなりギリギリまで高市早苗氏が新総裁に選出されると思っていた。日本テレビによれば、石破氏が新総裁に決まったのは午後3時23分だが、筆者とアスキーの担当盛田氏は午後3時ごろ、次回の連載は高市氏のデジタル政策を取り上げる方向でチャットを交わしていた。

 さらに、筆者は総裁選告示前には小泉進次郎氏が優勢だと考え、9月10日の本連載で小泉氏のデジタル政策を取り上げていた。それだけ、予測が難しい異例ずくめの総裁選だったということにしておこう。決選投票でも、石破氏215票に対して高市氏194票と僅差だった。

 石破首相は今回の総裁選で、デジタルやテクノロジーに関連する分野ではどのような政策を掲げていたのだろうか。総裁選出馬にあたって、石破氏は「政策集」を公表している。A4版のPDFで9ページに箇条書きが並ぶ政策集だが、手作業で数えてみると83項目あった。デジタルやテクノロジーに関連する分野についても、多数の政策が提示されている。

 総裁選や総選挙で掲げられた政策は、選挙後には忘れられ、反故にされることが多いが、そうだとしても新しい政権の担当者が、どのような政策を掲げているのか、理解しておくことは重要だ。

「世界一AIフレンドリーな日本」

 政策集をめくっていて、最初に目につくのは、「AIの研究・実装がしやすい『世界一AIフレンドリー』な日本を堅持します」という項目だ。「堅持します」ということは、現政権はすでに、日本はAIフレンドリーな国だと自認しているということか。

 2024年4月には、ChatGPTを開発・運営するOpenAIが、アジア初のオフィスを東京に開設している。グーグル、マイクロソフトやアマゾンなど、AI関連のデータセンターへの大型投資も相次いでいる。日本のスタートアップSakana AIの急成長も、日本国内では数少ないAI関連の明るいニュースだろう。

 グローバル企業の立地戦略に、日本政府が影響を与えられるかについては懐疑的にならざるを得ないが、米中関係の緊迫化などを背景に、日本のAI市場に一定の追い風が吹いているのは事実だろう。そうだとしても、「世界一AIフレンドリー」と言われても、にわかにはピンとこない。まずは、何がどうフレンドリーなのか、可視化することから手を付けてほしい。政策集には「AI政策の司令塔を強化します」とある。内閣府や経済産業省あたりにAI関連の組織をつくるのか。

地方の活性化とブロックチェーン

 石破氏が過去に地方創生担当大臣を務めていただけあって、地方の活性化に絡む政策は14項目あり、重点分野であるようだ。中には、ブロックチェーンとNFTを使って、地方の活性化につなげるという政策も含まれている。

 政策集には、「ブロックチェーン技術・NFT等を活用し、食や観光体験等地域の持つ多様なアナログの価値を世界価格に引き直し最大化します」との記述がある。率直に言って、一読しただけでは何を言っているのか分からない。丁寧に読み解く必要があるようだ。

 歴史的な円安も手伝って、多くの外国人が観光客として来日している。北海道のニセコなどでは、カツ丼やカレーが3000円以上の「インバウンド価格」に高騰し、都内でも4千円台の「和牛バーガー」や、1万円超えの海鮮丼などを目にすることがある。値付けが適正なのか、本当にWAGYUなのか、疑わしい店もあるようだ。

 たとえば、有名産地の和牛は、その生産や流通の履歴をブロックチェーンに記録し、本当に有名産地の和牛であることを証明し、相応の高値をつける。価値のあるものをきちんと評価して、相応の価格で取引し、不当に安かったり、ボッタクリであったりしないようにするというのは、かなり前からブロックチェーンのユースケースのアイデアとして存在する。

 こうした課題を政策で解決するとしたら、やはり事業者への補助金の交付や、特定の観光地での実証実験の実施などだろうか。

スタートアップ支援

 最近は、こうした「政策集」や「公約集」にはだいたい触れられているが、やはり石破氏もスタートアップ支援を掲げている。政策集には次のように書いてある。

 「政府の『スタートアップ育成5か年計画」を着実に進め、『アジア最大のスタートアップハブ』を実現します」

 この計画は岸田政権が2022年打ち出したもので、「アジア最大」も、すでにこの計画に書き込まれている。その意味で、石破氏の政策は目新しいものではない。アジア最大のスタートアップハブは、現時点では間違いなくシンガポールだろう。いまからシンガポールを上回るのはそう簡単ではない。では、具体的にどのように世界やアジアのスタートアップを日本に呼び込むのだろうか。

 政策集では、スタートアップへの支援策や、税制上の優遇措置の拡充、投資促進のための税制改革を実行するとしている。一朝一夕に実現できる政策ではないだけに、息長く、実効性のある手立てが打ち出せるだろうか。

政治資金のデジタル化

 石破氏は政策集で、「政治資金のルールを見直し、ルールを守るための体制を確立します」と政治改革を掲げている。

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