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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第269回

能登半島地震で浮かんだ、デジタル行政の弱点

2024年02月06日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 2024年1月1日に発生した能登半島地震から、1ヵ月が経過した。

 内閣府によれば、2月2日午後までに240人の死亡が確認され、1万4447人が避難生活を強いられている。

 発災から1ヵ月で浮上した問題のひとつとして、各地に散る避難者の情報の把握が挙げられる。

 最初に逃れてきた避難所から別の避難所に移動したり、親族の家に身を寄せたりと、避難者たちの状況は刻々と変化する。

 避難者たちに必要な支援をタイムリーに届けるには、避難状況を丁寧にアップデートしていく必要がある。

 こうした課題に対処するため、政府はマイナカードではなく、JR東日本のSuicaを使うことにした。

被災者にSuicaを配布

 デジタル庁によれば、避難者にSuicaを配って、氏名や住所、生年月日、携帯電話番号などをSuicaに登録してもらう。

 その避難者が最初の避難所を出たり、別の避難所に移動したりするときは、避難所に設置したカードリーダーにSuicaを読み込ませる。

 Suicaを使って、避難者が今どの避難所にいるかを把握し、支援物資の配布量の決定などに使うという。

 避難者の移動がタイムリーに把握できれば、避難所に届いた物資が足りなかったり、多すぎたりといった、非効率な支援を防ぐことができる。

 当初、マイナンバーカードによる避難状況の把握を検討したようだが、マイナンバーカードに対応したカードリーダーを確保できず、Suicaに切り替えた。

 1月26日の河野太郎デジタル大臣の記者会見によれば、JR東日本がSuica1万8千枚、カードリーダー350台を政府に対して無償で提供した。

被災地での本人確認の困難さ

 被災地では、避難者の避難先の把握が、常に課題として浮上する。

 災害が発生した直後は、被災者のほとんどが被災した場所に近い避難所に集まるが、時間の経過とともに、居場所は変化していく。

 全壊を免れた自宅に戻り、支援物資の食料だけを受け取る人もいる。被災を免れた親戚の家に身を寄せる人たちもいるだろう。

 主に車の中に寝泊まりし、食料を受け取るというニーズもあるようだ。

 発災から時間が経過するにつれて、被災者のニーズは変化し、多様化していく。

 支援を必要とする人たちに、必要な分の支援を届けるには、被災者の情報を登録しておく必要が生じる。

 しかし、避難時にマイナンバーカードや運転免許証などの本人確認書類を持って逃げられるとは限らない。東日本大震災では、多くの人の身分証明書が津波に流された。

 さらに、被災者がマイナンバーカードを持っていたとしても、本人確認をするには、マイナンバーカードの読み取りに対応できるカードリーダーと、アプリが入ったPCも必要になる。

 能登半島地震では、マイナンバーカードよりも迅速にカードとカードリーダーが用意できることから、Suicaで対応することになった。

デジタルは災害に強くはない

 ウクライナ戦争などの事例では、IDカードやパスポートなどの本人確認書類から、ウクライナからの避難者であることを認定し、支援の対象とした。

 戦争や紛争地では、支援金などの不正受給を防ぐため、丁寧な本人確認が必要になるが、本人確認が可能な書類を持っているかどうかは、その人が置かれた状況に左右される。

 本人確認書類を持たずに避難してきた人たちについては、聞き取りなどを通じて、その人が本当に避難者であるかを判断することになる。

 目の虹彩や指紋などのバイオメトリクス情報を使って、避難者の登録をする事例もある。

 いずれにしても、災害や紛争、戦争の現場では、カードリーダーにかざせば、瞬時に情報が表示され、行政サービスを受けられる便利な仕組みは、おおむね機能しない。

 アナログな手作業が必要となる局面も多い。

カードリーダーが災害用の備蓄に?

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