2022年に入って、食品メーカーが続々と食品の値上げに踏み切っている。
2月1日からハム・ソーセージや小麦粉などが値上げされ、その後もさまざまな食品の値上げが続く。
話題を呼んだのは、カップヌードルやコカ・コーラの値上げだろう。
2月3日のフジテレビによれば、カップヌードルは現在193円だが、6月1日から214円になる。
コカ・コーラも、5月1日から大型のペットボトル製品の値上げが発表された。
世界的な物価の上昇が、いよいよ日本でも個人の財布を直撃する局面に入ったことを実感させる。
こうした中で、米国を中心に”Buy Nothing”(何も買わない)と名づけられた運動が少しずつ広がっている。
ホールで買ってきたケーキが半分残ったので、だれかに引き取ってもらう。着られなくなった子ども服を別の子に譲る――。
FacebookなどのSNSで始まったようだが、「BuyNothing」というiPhoneとAndroidのアプリも登場している。
FacebookのBuy Nothingグループは活況
Facebookで、”Buy Nothing”のキーワードで検索してみると、たくさんのグループが存在していた。米国ではさまざまな地域でグループがつくられている。
ほとんどが非公開のグループだが、カナダのモントリオールのBuy Nothingグループは公開されていて、だれでも投稿を閲覧できる。
冷凍食品、スニーカー、ソファ、楽器などさまざまなものが投稿されている。
ただ、このグループでは、必ずしも”Buy Nothing”の言葉通りにはなっておらず、ほとんどの不用品に値段が付いていた。「割引のクーポンあげます」といった投稿もある。
アルバイトの求人が掲載されているグループもあって、どちらかというと地域の住民たちの情報掲示板といった雰囲気だ。
新しいSNSプラットフォーム
米FORTUNEは2021年7月30日に、「パンデミックはいかにして、Buy Nothing経済に火をつけたか」という記事を公開している。
記事によれば、Facebook上のBuy Nothingグループそのものは、新型コロナウイルスが世界に広がる以前から存在したようだ。
この記事は、世界各国でロックダウンが相次ぐ中で、店の中に入って買い物をするよりも、個人間で相対で物をやり取りする機運が高まったと分析している。
仕事が休業になり、店もほとんど開いていない状況で、不用品をやり取りするのは合理的な選択だと考える人が多かったのだろう。
Facebookの検索で確認した限り、2022年2月の時点では、数千人規模のグループが多数存在している。
2021年10月22日のニューヨーク・タイムズによれば、Facebook上では、世界44カ国におよそ6700のBuy Nothingグループがあるという。
2021年の秋ごろには、新しいSNSプラットフォーム”BuyNothing”も登場した。
不用品は別の人へ
開発元はBuy Nothing Projectの名がつけられていて、ShareThingという企業がサービスを提供している。アプリ開発のための募金も募っている。Wikipediaのような、寄付ベースでサービスを運営していく手法のようだ。
プロジェクトの「原則」を確認すると、「物やサービスの売買、取引、物々交換、その他金銭の両替は行なわない」と書いてある。
必要がなくなった物があったら、SNSに投稿し、希望者に無償で譲渡するというのが基本的な仕組みのようだ。
Facebook上の一部のBuy Nothingグループは、不用品を売買する場になっているところがあるため、こうした動きとは一線を画したいという狙いがあるのだろうか。
試しにiPhone版のアプリをダウンロードすると、Facebookのアカウントでログインすることができた。
GPS機能で住んでいる地域を指定すると、コミュニティに参加することができた。
キーワードは「超ローカル」
東京都内の半径6マイル(約9.6km)圏内では、いまのところ筆者を含め15人がBuyNothingアプリに参加している。
これまで、都内の半径約10km圏内で、参加者の間で物が譲渡された実績はないようだ。
一方、Buy Nothing Projectのウェブサイトによれば、1万3000人がBuyNothingアプリのコミュニティに参加している。2022年春には、PCなどで使えるウェブアプリもローンチするという。
検索で調べた限りだが、日本にはBuy Nothingの名を冠したFacebookグループはまだない。ただ、Buy Nothingの名こそ使っていないが、手放したい物を無償で引き取ってもらうMottainai JapanというFacebookグループがあり、約3万2000人がメンバーになっている。
日本でBuy Nothingのようなコミュニティがにわかに広がるとは思えないが、時間をかけて、一部の人たちに浸透していくのではないだろうか。
活発なコミュニティを形成するためのキーワードはおそらく「超ローカル」(Hyper Local)だろう。
Buy Nothing Projectの「原則」には以下のような項目が書かれている。
「私たちは、超ローカルグループがコミュニティの社会の骨格を強くし、メンバーそれぞれの健康と活力を確かなものとすると信じています」
先ほど紹介したニューヨーク・タイムズの記事は、超ローカルな事例を紹介している。
ニューヨークのアッパー・ウェスト・サイドに住む男性は、ピクルスを漬ける酸っぱい液体が余ってしまい困っていた。
捨てるのももったいないと考えた男性が、Facebookのグループに投稿したところ、希望者から返信があった。
希望者は10ブロック離れたところに住む男性で、ピクルス・ジュースを飲むのが好きなのだそうだ。
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