中国が、アルゴリズム規制に乗り出すというニュースが注目を集めている。
中国政府が問題視しているのは、インターネットサービスの事業者が、ユーザーに商品やサービスを勧めるときに用いるアルゴリズムだ。
事業者は、ユーザーのネットの閲覧履歴や書き込みの内容、「いいね」や「グッド」ボタンを押した傾向などを解析し、クリックする可能性の高い投稿や商品を自動的にリコメンド(推奨)する。
リコメンド機能は強力で、ユーザーが過剰にSNSのコンテンツにのめり込んだり、必要のない商品を購入してしまったりといった問題も指摘される。
8月27日付のロイターの報道によれば、中国サイバースペース管理局(CAC)はアルゴリズム規制のガイドライン案を公表した。
CACは声明の中で、こうしたリコメンド機能をユーザーが簡単にオフにできる選択肢を用意すべきだと指摘した。
9月には、CACなど複数の関係当局が、今後3年以内にアルゴリズム規制に関する法制度を整備する方針を明らかにした。
強権的な動きを強める中国政府に対して、米国政府などから「けしからん」「イノベーションを阻害する」といった声が上がるのかなと思ったが、この件について欧米の各国政府は、むしろ前向きに注目しているようだ。
アルゴリズムがさまざまな問題を引き起こしているのは、中国だけではないからだ。
インスタは10代のメンタルヘルスに悪影響
米国ではこのところ、InstagramやTikTokといったSNSが、10代の若者たちのメンタルヘルスに及ぼす影響が注目されている。
9月15日付のウォール・ストリート・ジャーナル日本版は、米国の18歳の女性の事例を紹介している。
この女性は、13歳でInstagramの利用を始めた。インフルエンサーの完璧な体形とライフスタイルに引き込まれ、1日に3時間、インスタを使い続けたという。
この女性は、摂食障害に苦しんでおり、長時間のInstagram利用が原因だと考えられている。
Instagram、TikTok、Facebookなどネット上にはさまざまなSNSがあるが、多くの場合、投稿する人のキラキラしたベストな瞬間がシェアされる傾向がある。
10代の若者が日々、こうした投稿にを目にしていると、他者から自分がどう見えるかを過剰に意識し、気分が落ち込み、悪い場合はうつ状態になる。とくに、10代の女性への影響が強いという。
Facebookは、こうした問題を十分に認識している。
同紙はFacebookの内部資料を入手。Facebookは、Instagramがユーザーのメンタルヘルスに与える影響に関する、数万人を対象にした大規模な内部調査を実施していた。
調査結果は、マーク・ザッカーバーグ氏を含む幹部にプレゼンで報告されていたという。
TikTokと「チック症」の関係
体がけいれんし、突発的に声を出したりする「チック症」とTikTokとの関連性についての報道もある。
10月21日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、米国、カナダ、オーストラリア、英国で、チック症の疑いで病院を受診する10代の女性が増えていると報じている。
医療機関が、女性たちを追跡調査した結果、多くの女性に共通点があった。自らを「トゥレット症候群」だとするTikTokのインフルエンサーの動画を見ていたのだという。
SNSが若い人たちのメンタルヘルスに与える影響に関する一連の報道は、あまりアルゴリズムについて触れていない。
「トゥレット症候群」と話すインフルエンサーの事例で考えると、特定のインフルエンサーの動画を閲覧すると、同じインフルエンサーの別の投稿だけでなく、類似する投稿もリコメンドされる。
そうすると、ユーザーは類似する投稿を何度も閲覧する可能性が高まる。
こうしたサイクルを繰り返すことが、ユーザーの精神や行動に何らかの影響を及ぼすのだろう。
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