「デジタル貿易協定」が、注目を集めはじめている。
2021年7月13日のブルームバーグ(日本語版)は、米政府がインド太平洋地域で、デジタル貿易協定の成立を目指す案を検討していると報じた。
協定は、日本、カナダ、オーストラリア、マレーシア、チリ、ニュージーランド、シンガポールが含まれる可能性があるという。
国境を越えたデジタル商取引が拡大を続けている中で、国家間で共通のルールを設定しようという取り組みだ。
あらかじめルールを設定し、デジタル空間で企業が商取引しやすい基盤をつくる狙いに加え、デジタル空間でも影響力を強める中国に対抗する勢力を広げる意図もある。
日米間にはすでに協定がある
日本はすでに、米国との間で日米デジタル貿易協定を締結しており、2020年1月1日に発効している。
まず、日米の協定の中身で注目すべきなのは関税の取り扱いだ。
アプリや動画、音楽などを米国から日本に送信しても、日本の税関は関税を課さない。
仮に、アマゾンやネットフリックスが、米国から日本に動画を送信する際に関税がかかると、日本の視聴者の月額利用料が値上げされるだろう。
日本だけでビジネスを展開している国内の動画配信サービスは喜ぶかもしれないが、こうした企業が米国でビジネスを展開する際にも、米国で高い関税が課せられるかもしれない。
現状としては、日本から米国に送信される動画よりも、米国から日本に送られる動画のデータ量が圧倒的に多い。
このため現時点では、日本よりも米国にメリットの大きい規定だと思われる。
協定には、「自国の領域で事業を行うための条件として、対象者に対し、自国内でのコンピュータ関連設備の利用・設置を要求してはならない」との規定が盛り込まれている。
2021年5月、アップルが中国にデータセンターを設立したニュースが話題を呼んだが、協定の規定は、こうした国家によるデータの囲い込みへの対応策と受け止めていいだろう。
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