“高音が聞こえない”は細胞の経年劣化!?
「おかーちゃん、キュイーンがある! キュイーンって聞こえる!」と、ある日保育園の登園時に3歳児がいきなり言い出しました。キ、キュイーン? 何かの電子音? まったく私には聞こえないんだが……。3歳児に何が鳴っているのかを聞いたところ、「これこれ!」と、とある家の花壇にある機械を指さしました。……なんじゃこりゃ。すると、確かにプツッと音がして、何やら高い音が聞こえた気がしましたが、すぐに聞こえなくなります。が、3歳児はずーっと「キュイーンまだ鳴ってる!」と言っています。どうやら、その音が私には聞こえていないようです。
家に帰ってその機械が何かを調べると、どうやら人間には聞こえにくい周波数の音(超音波)を出して、動物を寄せ付けなくするものでした。なるほど、野良ネコチャンとかが花壇を荒らしたらいけませんもんね。動物のいやがる音を出して、その付近に寄せ付けないしくみになっているようです。確かに、妙に高くて単調な音は人間でも不快に思うことが多いですもんね。特に“蚊”。あの蚊の飛ぶ音(いわゆるモスキート音)に対して怒りともどかしさを覚える人は少なくないと思います。耳元で「プィィィ……ン」という音が聞こえるともう煩わしいし、“刺されてかゆくなる可能性”が人間を襲います。音が低くても気味悪そうですけど。
しかし、なぜ機械の出す音が、子供には聞こえて私には聞こえなかったのでしょう。これには“耳年齢”というものが関係しています。人間はだいたい20ヘルツから2万ヘルツの周波数の音を聴き分けられると言われており、数字が大きいほど音が高くなります。ですが、この“高い音”は、年を取るほど聞こえにくくなっていきます。その理由、それは“耳の細胞が経年劣化するから”です。あああ、細胞の劣化きました!
ですが、そもそも経年劣化するのなら、全体的に聞こえなくなっていってもよさそうなものですが、なぜ高い音が聞こえなくなるのでしょう? でも、高い音が聞こえなくなるってことは、蚊のあの嫌な音が聞こえなくなる可能性もあるってことですよね? ストレスがひとつ減りそうですが、気が付いたら蚊に刺されてかゆい、ってのもまたイラッとしそうです。
音が聞こえなくなるしくみを説明するには、“聞こえるしくみ”を理解しなければなりませんね! 世の中はいろいろな音であふれていますが、これはそもそも、物体が動くときに周りの空気も動かして、その振動が耳に伝わって“鼓膜”を揺らすことで音として認知されています。つまり、音波が耳の中に入っていって、鼓膜を揺らしているんですね。それと同時に、中耳の中の3つの骨(耳小骨)を振動させます。ちなみにこの耳小骨のひとつ“あぶみ骨”は、人間において最小の骨(数ミリ)と言われているそうです。
次にこの振動が、今度は“蝸牛”と呼ばれる、字のごとくカタツムリの形をした器官の中を満たしているリンパ液を揺らします。すると、この蝸牛の中にある“有毛細胞”も揺れます。とうとう細胞が出てきました!
そうです、この有毛細胞が、高い音が加齢とともに聞こえなくなるというカギを握っているのです。
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