SF? オカルト? いいえ“科学”です
今ここにいる自分は、唯一無二の存在です。過去たくさんの選択をしてきた結果、ここに居るとも言えます。もし、違った選択をしていれば、別のところに居たかもしれません。そして、別のところで、今の自分が知らない人たちと、今と違ったことをしていたかもしれません。この、“今とは違う世界”が、“今の自分のいる世界”と“同時に存在している”というのが、『多世界解釈』です。SFでよく出てくる「並行世界」とほぼ同義だと思って 構わないと思います。
この多世界解釈、科学好きの小説家の作り話と思われがちですが、実は量子の世界ではありえる話なんです。……ちょっと待て、あれだけ根拠がなかったり不確定要素を嫌う物理学が、こんなパラレルワールドをありえる話って言うとかおかしくない? と思いますよね? でも、逆にこの多世界解釈の方が、量子の世界を説明するのにつじつまが“地味に合う”のです。
前回のシュレーディンガーの猫のお話で、量子である電子は、観測する前は波のように広がっているのに、観測した瞬間、なぜか一点(粒)に収縮してしまうことを説明しました。が、この一点に収縮する理由がわからないために、論争が巻き起こります。計算上、理論上は正しい結果がでるのに、その過程の説明できない部分に納得ができない物理学者達……。
そこに「なら、波は広がり続けるって解釈するとどう?」って言い出す人が出てきたんです。その解釈の基となったのが、ヒュー・エベレットさんの多世界解釈です。エベレットさんは、宇宙の始まりで有名なビッグバンではじまる宇宙の歴史と、量子の世界を合わせて考えた人物です。実は、何もない状態(時間も空間もない状態)から、何かが生まれるということが量子の世界で発見されたのですが、エベレットさんは「マクロはミクロの集合体だから、宇宙も結局は量子の集まりじゃん? 宇宙が誕生するもととなった量子が生まれる世界と生まれない世界があるとすれば、その時点で世界が分かれているんじゃね?」って考えたのです。エベレットさんは並行宇宙論の先駆者なんですね!
お話を量子に戻してみましょう。電子が波として延々と広がるのなら、点として見つかる電子はどう説明するのか。点は、実は色々なところに同時に存在していると考えられています。そう、点の数だけ、観測者が選択できる世界があるのです。
そして観測した瞬間、その点がそこにある世界を観測者が選んだわけです。「都合よすぎない?」と皆さんは思うかもしれませんが、実はこれで式の謎の問題が解決します。この解釈だと、「なぜか一点に収縮する」という、解けない謎が排除されますよね? 物理学者が嫌う不確定要素が無くなるのです。
この一点に収縮する謎は、波の広がりを示すシュレーディンガー方程式にも影響がありません。つまり、シュレーディンガー方程式でも、この一点に収縮する謎は表せなかったのです。そのため、これまでやり合ってきた論争の火種がなくなり、スムーズに説明ができるようになります。これが「つじつまが地味に合う」という理由です。
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