この連載は江渡浩一郎、落合陽一、きゅんくん、坂巻匡彦が週替わりでそれぞれの領域について語っていく。今回は江渡浩一郎が出演したトークイベント「学問とニコニコの交差点」での議論を振り返る。
江渡浩一郎
メディアアーティスト。2011年からユーザー参加型のイノベーション創発のプラットフォームとして「ニコニコ学会β」を起ち上げ、現在は実行委員会委員長を務める。ニコニコ学会βは、グッドデザイン賞、アルス・エレクトロニカ賞を受賞。
http://qreators.jp/qreator/koichiroeto
7月16日に五反田のゲンロンカフェにて開催された「学問とニコニコの交差点」と題するトークイベントに登壇した。
登壇者は哲学者の東浩紀氏、ニコニコ学会β運営委員長のくとの氏、そしてニコニコ学会β実行委員長の江渡浩一郎(私)の3人だ。このイベントは、『ニコニコ学会βのつくりかた』という本の刊行記念イベントという位置付けである。Togetterでまとめられているが、これだけ見てもよくわからないかもしれない。
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ニコニコ学会βのつくりかた―共創するイベントから未来のコミュニティへ |
まず背景を説明する。東氏と私は2009年12月の第1回ウェブ学会ではじめてお会いしている。このウェブ学会は実に画期的なシンポジウムだった。
登壇者は文系・理系・ビジネスが混ざっており、Ustreamによる中継やTwitterのハッシュタグによる質問の募集など、インターネットを活用したシンポジウム運営を行なっていた。このような大規模な学術シンポジウムをインターネット中心で行なうのは初めての試みだったのではないだろうか。第2回ウェブ学会の開催が期待されていたが、実現されずに終わっている。
実はニコニコ学会βは、このウェブ学会に大きな影響を受けている。ともに立ち上げを進めた岡本真氏はウェブ学会の中心メンバーだった。そのほか運営に関わった人にも加わってもらい、関係者に意見を聞き、その反省をふまえて立ち上げたのがニコニコ学会βだった。
文系と理系の違いを前提としたうえで比較する、イベント運営の差異
さて、学問とニコニコの交差点での議論は多岐に渡ったが、その中でも1番興味深かったのは文系と理系の違いによるイベント運営の違いだろう。
まず説明しておく必要があると思うが、文系と理系の違いを前提とした議論をしようとすると「文系と理系を区別すること自体が無意味」という指摘をして議論を終わらせようとする人が必ずあらわれる。そう言いたい気持ちを否定するつもりはないが、そもそもそれは大前提として共有している。
前提とした上で、目の前にある問題にどう対応すべきかを議論したいのだ。
たしかに文系・理系という言葉は曖昧な区分である。日本における文科省の行政において必要された区分であり、行政上の恣意的な区分であるとの指摘はよく受ける。厳密な定義を前提とする議論にはそぐわない。そのため、本稿ではリッケルトによる『文化科学と自然科学』をベースとした議論としたい。
文化科学と自然科学の区分は本質的なものである。自然科学における発見は、実は誰が行なってもよかったものである。あるときある瞬間、誰かが発見したにすぎない。
たとえば、アインシュタインが相対性理論を発見していなかったとしたら、その後にほかの誰かが発見していただろう。もちろん名前は違うものになっていたかもしれない。科学史上の位置付けも異なったものになっていただろう。しかし、それは同じ発見なのである。自然科学における発見の本質とはなんら関係がないのだ。
それに対して、文化科学における知のあり方は本質的に異なっている。文化科学においては、究極的には答えをだす方法がない。もしくは、歴史のみがその答えを出す。
人類社会を対象とした理論であれば、その答えを自然科学のように実験しようと思えば軽く数百年はかかるだろう。さらにそれでも答えが出たとは言いきれない。逆にいえば、このように歴史のみが答えを出すような類の問題を扱うのが文化科学であると定義しているのだ。
その前提で、自然科学と文化科学でどのようにイベントのあり方が変わっていくだろうか。東氏によれば、理系(自然科学)における学会とは、要するにでかい飲み会なのだという。
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