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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第135回

【JSTnews10月号掲載】さきがける科学人/創発的研究支援事業「ヘリウム表面上の電子を用いた量子ビットの実現」/先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「固体ネオン上の浮揚電子を用いたスピン量子ビットの実現」

量子力学に強く惹かれ、量子ビットの高性能化に一貫して取り組む

2026年10月28日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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川上恵里加。理化学研究所量子コンピュータ研究センター理研白眉研究チームリーダー。大阪府出身。2016年デルフト工科大学博士課程修了。Ph.D.。沖縄科学技術大学院大学博士研究員を経て、20年より現職。17~20年さきがけ研究者、20年より創発研究者、25年よりASPIRE研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 運動3法則や量子力学に衝撃

 高校時代、物理の教科書でニュートンの運動3法則に出合った時、世界の見方が一気に変わる衝撃を受けました。単純な数式で自然界の事象を記述できることに、本質に迫る魅力を感じたのです。大学進学後、科学者の伝記に触れる中で科学者への憧れを深め、将来の職業として意識するようになりました。

 量子力学を学んだ時の衝撃は、高校時代の体験を上回るものでした。日常の感覚では信じ難い現象を、この世界を支配するルールとして精緻に記述しているのです。感情や思い込みを排し、論理を積み重ねて真実にたどり着けるところに強く魅了されました。

 大学3年の頃、「もっと外の世界を見たい」とフランスへ留学しました。留学中にイタリアでのインターンで初めて量子情報理論を学び、量子コンピューターに興味を持ちました。帰国後に修士号を取得し、オランダのデルフト工科大学の博士課程へ進学しました。さまざまな方式の量子コンピューターの開発を目指す研究者が世界中から集まる先進的な環境で、半導体中の電子を用いた量子ビットの研究に没頭しました。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 真空に浮かぶ電子を量子ビットに

 液体ヘリウムや固体ネオンの表面近くの真空中に電子を浮かべることができ、「浮揚電子」と呼ばれます。これを用いて、量子コンピューターの基盤となる高性能な量子ビットを実現する研究に取り組んでいます。量子ビットは不純物や欠陥があるとノイズに乱されて量子状態を保てなくなりますが、真空中であれば周囲の乱れを大幅に抑えられます。博士課程で半導体中の電子を研究する中、高品質なシリコン結晶でも欠陥や不純物は避けられず、乱れの影響を取り除くだけで膨大な時間がかかると気付き、真空中の電子へと関心が向くきっかけとなりました。

 量子ビットの実現方式には超伝導や半導体のように集積化しやすいものと、イオンや冷却原子のように量子状態を長く保てるものがあります。浮揚電子の一番の強みはその両方を兼ね備えている点です。ただし真空中の電子には、集積化に不可欠な電気的に量子状態を計測する技術がありませんでした。そこで、共振器などを用いて量子状態を電気的に読み出す新しい手法を開発しました。これが浮揚電子による量子ビット実現への大きな一歩となりました。

 現在は液体ヘリウムと固体ネオンの2つの研究を並行して進めていますが、固体ネオンは電子位置の制御が難しく、液体ヘリウムは表面が揺らぐという課題があります。どちらの課題を克服できるかを探るとともに、量子ビット操作に必要な低消費電力の低温用マイクロ波発振器の開発にも取り組んでいます。

液体ヘリウムや固体ネオンを保持する真空容器。内部で電子の量子状態を操作する実験をしています。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 直感と異なる瞬間を楽しんで

 今いる場所・環境だけが全てだと思わずに、外の世界へ飛び出してみてください。私自身、学部のうちにフランスへ留学し、イタリアでインターン、博士課程はオランダ、博士研究員は沖縄と、さまざまな場所で研究を続けてきました。場所が変わるたびに視野が広がり、それが今の研究の土台になっています。

 研究をしていると、予想とはまったく異なる結果に出合うことがあります。そんなときに大切なのは、思い込みにとらわれず、式を一つ一つ丁寧に追って科学的に考える姿勢です。直感と違うからこそ面白いと思える瞬間が、研究の一番の醍醐(だいご)味だと感じています。

テニスを楽しむ休日。ボールの運動は物理法則に従うはずですが、その初期条件(私のスイング)の制御は難しいです。

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