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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第128回

【JSTnews10月号掲載】特集1

探究を続けた先に見えてくる、研究者としての新たな「挑戦」

2026年10月19日 12時00分更新

文● 肥後紀子 写真● 島本絵梨佳

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 今後、国際的な活躍が一層期待される日本の若手研究者を表彰する「羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)」。第5回受賞者の黒木祐子さん、小林天美さん、山口そのみさん、森本真里子さんの4氏に、「挑戦」をキーワードに研究者としての歩みやこれからの目標を聞いた。

(左から)《奨励賞》山口 そのみ。ダナ・ファーバーがん研究所(米国) がん免疫学・ウイルス学部門 HFSP博士研究員。抗ファージ防御機構とヌクレオチドシグナル研究の分野で、RNAやヌクレオチドが細胞状態を判断し、動きを変えていく仕組みを解明するという、独自性の高い成果を上げている。
《奨励賞》小林 天美。東北大学 医学イノベーション研究所 医学創生研究部 講師(国際卓越研究員)。臨床医として培った経験を基盤に、神経変性疾患や神経膠腫(こうしゅ)といった難病に関する分子機構の解明と治療法開発に取り組む。基礎医学と臨床医学を有機的に結び付けた研究に特徴がある。
《最優秀賞》黒木 祐子。マサチューセッツ大学ボストン校(米国) 数学科 アシスタントプロフェッサー(受賞時:インテーザ・サンパオロ AIリサーチ(イタリア)データ&AIリサーチャー)。機械学習理論とグラフマイニングの分野で、数理理論に基づいて社会課題の解決につながる研究に取り組む。将来的には、実験科学の研究や実応用にも成果を生かすことを目指している。
《特別賞》森本 真里子。ノートルダム大学 化学・生化学科(米国) アシスタントプロフェッサー。化学生物学と免疫学を融合させ、キメラ化合物や糖鎖を基盤とする新しい免疫制御分子を生み出す研究に取り組む。免疫細胞を回復させることで、新しい医療への貢献を目指す。

出会い、探究心、ワクワク感
私が研究を志したきっかけは

―― はじめに、研究者を志したきっかけと現在の研究分野を選んだ理由を教えてください。

黒木:研究者になろうという覚悟ができたのは博士課程の頃です。それまでは何度か専攻を変えていました。最初は生命理工の授業がすごく楽しくて、次に数学の授業にも魅了されて、数学を学びたいと思う一方で、社会とのつながりも重視したいと考えていました。そこから最適化理論や経営工学を学び、最終的に情報科学こそが自分の道だと気付きました。そこから、機械学習の理論という自分の「軸」と「問い」が徐々に形成され、研究の道に進もうという気持ちが固まりました。

小林:学部生の頃に受けたある授業でインスピレーションを受けて研究に興味を持ち、自主的にやらせていただけないかと先生に相談し、肺を持つ魚の卵の中にある胚の研究をすることになったのが最初のきっかけです。今の研究とはまったく異なるテーマですが、実験をしているうちに、次に何が起こるかわからない、研究のワクワク感に魅了されたことを覚えています。皆さんも、きっかけになる授業はありましたか?

森本:実は子どもの頃は人の役に立つ仕事がしたくて、医師を夢見ていました。でも、大学の時に留学して1年目に取った有機化学の授業がとても面白かったんです。パズルのように反応を1つずつ組み合わせて誰も作ったことのない分子を作ることに夢中になって「医師よりも化学の研究者になりたい」という新たな夢が芽生えました。それが、有機化学を生物学や免疫学にどのように応用するかという現在の研究テーマにつながっています。

山口:私はきっかけを明確には覚えていなくて、面白いと思うものに引き寄せられて、気が付いたら大学院に進んで、留学して、その結果、研究者になったという気がします。RNAサイレンシングという、ゲノム情報の中でも役割を持たないように見えるものが重要な働きをしているという仕組みが面白くて、もっと追究したいと思いました。小林さんは確か臨床医もされていましたよね?

小林:学生時代は研究の日々でしたが、医学部なのでやはり医師になるのが定めなのだと。ただ、神経難病の患者さんを診る中で、治すことができない自分に無力感を感じていました。患者さんの役に立つには、新しい治療法を見つける必要があると考え、研究の道にシフトしました。

一人で深く考える時間を大切に。数年単位で考え続けることもあります。(黒木)

研究スタイルは各人各様
失敗や断念を念頭に取り組む

―― 普段はどのように研究を進めていますか?

黒木:数理的な基盤研究という分野の特性かもしれませんが、まず自分一人で深く考える時間を取っています。短期間ではなく、1年、2年と考え続けることもあります。その上で、共同研究者らの意見を聞いて、少しずつ進めていくのが自分のこだわりですね。

小林:黒木さんとは逆で、自分一人だと行き詰まってしまうタイプなので、同僚やラボの人たちとよくランチミーティングをします。「こういうアイデアがあるけど、どう思いますか」とコミュニケーションを取ることで刺激をもらっています。

山口:私も、よく同僚に「壁打ち」のように疑問をぶつけてアドバイスをもらうことがあります。ただ、私の研究分野は未知のたんぱく質を扱うので、いちかばちかのところもあります。だからこそ「ここまでに結果が出なければ断念する」という分岐点を常に意識して研究を進めています。

森本:私の研究も山口さんと同じような部分があるので、新しいアイデアを思い付いた時はまず失敗を前提に臨むようにしています。その上で、できるだけ早くアイデアの実現性を探るために、どのような実験をすべきなのかはかなり深く考えますね。

何が起こるか予測できない研究のワクワク感に魅了されました。(小林)

共同研究者とのずれに苦労も
専門性で「世界共通言語」得る

―― これまでの研究において、大変だと感じたこと、逆に最もうれしかったことは何ですか?

山口:当然ですが「これは試してみる価値があるかも」という仮説を思い付いて実験を進めてみても、うまくいくという保証はどこにもありません。実際に、ここ最近はうまくいかないことが続いています。こうした状況を早く乗り越えられたらいいのですが…。

小林:山口さんは謙遜されていますが、ボストン界隈(かいわい)では注目されている研究者です。研究分野も近く、研究者の情報などいろいろアドバイスを頂くこともあります。

黒木:私が大変だったのは、パートナーがイタリアに研究の拠点を移すために、2人同時にポジションを探すことになった時です。結果的には幸運にも職を得ることができただけでなく、ミラノ大学に私の研究分野の著名な教授がいらっしゃって、共同研究もできました。

小林:共同研究者は非常に頼もしい存在ですが、方向性がずれた時は苦労もひとしおですよね。以前、4つのグループと共同研究した時は大変でした。それぞれ専門性や強みも違うので、互いを尊重しつつWin-Winになることを意識して、細かく擦り合わせをすることで何とか乗り越えることができました。

森本:私は自分の研究室を立ち上げる時が一番大変でした。博士研究員(ポスドク)時代のリサーチグループとの差別化や、自分にしかできない研究分野とは何なのか、さらに、指導する立場としてどのように学生を成長させるのかなど、今でも試行錯誤ばかりですが、ようやく少しずつ見えてきたところですね。

山口:一番うれしかったことは、15年以上前の論文で観察されていたものの説明がつかなかった現象を、私が解いた立体構造によってうまく説明できた時です。実験で論文と同じ結果が出た時には、アドレナリンが出ました。

小林:私は論文を書いて認められたことですね。それまで学会であいさつに行っても名前を覚えてもらえなかった先生方から「いい研究をしていますね」と声をかけていただいた時は、頑張ってきて本当に良かったと思いました。

森本:自分が開発した分子ツールが、想定した通りの結果を出した時がうれしかったです。機能低下した免疫細胞の働きを抑制するたんぱく質を分解するツールですが、初めて患者さんの免疫細胞を使って実験したら、たんぱく質が完全に消えた状態になって感動しました。

黒木:そもそも、研究者であり続けられることは当たり前じゃないと思っています。そうした中で、自分なりに専門性を突き詰めていくと、その専門性によって「世界共通言語」を得たような気がして、それがうれしいですね。私は英語が苦手ですが、専門分野についてなら話も進むし、相手も真剣に聞いてくれます。ネットワークが世界中に広がるのは大きな喜びです。

小林:それ、わかります。学会で1つの共通テーマについて話し合っている時は、世界とつながっている気持ちになりますよね。

面白い問いが立てられるように、目の前のことに集中したいと思います。(山口)

異分野連携で成果を社会還元
応募で自分を振り返る機会に

―― 研究者として、今後どんなことに挑戦していきたいと考えていますか?

黒木:これまで、自分の専門分野に近い方とも異分野連携をやってこなかったので、そこにチャレンジするのが1つの目標です。数理の分野は目に見えにくい研究も多いですが、ニーズに合わせてデータの安全性やアルゴリズムの保証について考えていきたいと思っています。

山口:私は、これからも自分が面白いと思える問いを立てて、それを突き詰めていく道を進みたいです。これまでは一人で実験をして一人で論文を書くことが多かったので、黒木さんと同じように他の研究者とのコラボレーションにも挑戦したいですね。

小林:RNAとたんぱく質との相互作用を観察して、疾患や発症のメカニズムを解明していきたいと考えています。将来的には、やはり創薬につなげられればと思っています。また、研究室主宰という立場になったので、若い人たちに「この人の下で研究したい、自分も将来こうなりたい」と思ってもらえる研究者になっていく必要があると思っています。

森本:私も、研究室のメンバーの成長を見守り、彼らが活躍できるステージを築いていきたいです。自分の研究に関しては、分子ツールを使ったさまざまな実験を進めていますが、今後はそれを異分野の方ともやっていきたいと考えています。共同研究を通じて、成果を創薬などにも結び付けられたらという気持ちがあります。

―― 最後に、「羽ばたく女性研究者賞」への応募を検討している研究者に、メッセージをお願いします。

黒木:私の場合、応募のきっかけの1つは、自分の研究分野に女性研究者が非常に少ないことでした。自分が応募することで、研究者という選択肢があるということを次世代の方に伝えていけたらと思いました。

小林:私はメンターの先生から賞のことを教えていただきました。応募時はボストンにいましたが、日本で研究室を立ち上げるにあたり、女性の研究室主宰が少ない中で1つのロールモデルになれたらという思いで応募しました。

山口:応募自体が1つの「挑戦」という側面もあると思います。賞に応募する際は、自分のこれまでの研究を整理し、言語化する良い機会にもなります。

黒木:応募が、自分の歩みを振り返る機会になりますよね。それに、受賞すると受賞者のコミュニティーに招待してもらう機会を頂けます。研究者にとって、信頼できるコミュニティーに出会えることも重要だと思います。

小林:これまでの受賞者の方々と交流できる場があるのは本当にうれしいですし、これから楽しみですね。

森本:私はアメリカで13年間研究を続けてきましたが、この賞を頂けたことで自分の研究が日本で認められたと感じ、本当に光栄でした。応募で失うものは何もないので、ぜひ積極的にチャレンジしてみてください。

今でも試行錯誤ばかりですが、自分が実現したい研究の姿が見えてきたところです。(森本)

第6回 羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)募集中
 JSTは、羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)の募集を10月1日(木)より開始しました。この賞は国際的に活躍が期待される若手女性研究者を対象に、JSTと駐日ポーランド共和国大使館の共催で2021年度に創設されました。
 ポーランドが生んだ偉大な女性研究者、マリア・スクウォドフスカ=キュリーが30歳代前半での功績を認められノーベル賞を受賞したことにちなみ、その名を冠しており、Early careerの女性研究者が研究を継続し、世界に大きく羽ばたくことを応援します。

応募期間:2026年10月1日(木)~12月10日(木)日本時間正午まで
応募条件:
 ●2027年4月1日時点で博士学位取得後5年程度※までの女性研究者(ポスドクを含む)、大学院生(博士後期課程)、およびこれらに相当する者
 ※ライフイベント等による研究活動休止期間を勘案する
 ●科学技術に関連する幅広い研究分野で研究をしている者
 ●国籍:日本、居所:不問
表彰内容:【最優秀賞(1名)】副賞100万円、ポーランドの研究機関訪問の渡航・滞在費を支給
 【奨励賞(2名)】副賞各50万円
https://www.jst.go.jp/diversity/researcher/mscaward/index.html

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