エンジニアの情熱を再燃させる「Tech Challenge Party 2026」レポート 第8回
AI時代にこそ必要 これからのエンジニアに必要なのは「視点力」
「世界一地味なデモ」が魅せた圧倒的な性能 超高速タイムスタンプエンジン開発の舞台裏
2026年05月27日 09時00分更新
「あなたの書くプログラムは速いですか?」
CTOである島澤氏は、エンジニアとの面接で「あなたの書くプログラムは速いですか?遅いですか?」という質問をたまに投げかけるという。「速いと思います」「遅いと思います」「クラウド使っています」といった答えのほか、「ハードウェアは苦手です」「考えたことありません」という馬鹿正直なコメントも返って来るという。
しかし、コンピューターでプログラムを動かすにおいては、CPUのコア数、スレッド数、利用効率などのさまざまな性能要件があり、本来エンジニアはそれらの性能感覚を意識すべきというのが島澤氏の持論。「しかし、この性能感覚について説明できるエンジニアは減っている」と島澤氏は指摘する。
島澤氏は、システムにおいてエンジニアが理解すべきポイントとして「律速点」という用語を挙げる。これは平たく言えばボトルネック。「要はシステム全体を見て、ボトルネックを解消すれば、最終的な成果物はかなりよいと言える」と語る島澤氏は、TrusteeのシステムにおいてTPS(Transaction Per Second)と律速点を披露する。
まずネットワークにおいては、スペック通りの性能が出ているかを確認し、500万TPSを確認。一方でサーバーの性能は現時点で十分高速なので、遅い場合は実装が悪いと考えられる。そして、Trusteeでボトルネックになったのは、100TPSしか出ていない時刻保証の部分だ。ただ、この部分は複数のハードウェアを用いることで非同期化し、数百万TPSを実現できる特許出願技術で実装できた。
その上でTrusteeの律速点は、システムで必須でありながら、代替不能な暗号化処理だ。これを実現するハードウェアの性能限界が律速点であり、システム全体のパフォーマンスを決定づける要素になっているという。「今回の開発で、こういった仕組みを理解してものづくりすることの重要さを改めて感じることができた」と島澤氏は語る。
2ヶ月で16倍になったシステム これから大事なのは「視点力」
性能についてこだわりを持つ島澤氏だが、必ずしも多くのエンジニアに共感を得られるわけではない。「私は現代に蔓延する悪い『TDD』と呼んでいます。これは『テスト駆動開発』ではなく、『つじつま合わせ駆動開発』(笑)。これが業界に浸食してしまっている」と島澤氏は吐露する。
島澤氏は、トラブルになった自社のとあるクラウドアーキテクチャ図を披露。「うちでやってみたら、全然性能出なかった。アーキテクチャ図はどうつないでいるかはわかるけど、どれだけ性能が出るかは表現されない」と島澤氏。スケールアップ、スケールアウトで対応しようとしたが、サーバー費が高額になるため、サービスとしては成立しない。結局、リリースは見送りになった。
そこで島澤氏は、エンジニアに「現行のハードウェアの性能から理論上のスループットを想定して、再設計してほしい」と依頼。その2ヶ月後、エンジニアの改良でシステムの性能はなんと約16倍になった。「エンジニアは『理論上、これくらいの性能が出てないとおかしい』と考えると、プログラムを追い込むことができる。1/16のサーバーで済めば、サービスとして十分成立する。どこに着目させるかはすごく重要だと感じた。性能にフォーカスすると、ビジネスが変わると思う」とコメントする。
次のチャレンジは、今夏にリリースが予定されているTrusteeの新サービス。AIによる写真加工技術を悪用した取引を防ぐべく、画像の真正性を証明するカメラアプリを開発している。「こうしたことができるのも、性能が良くて、最低限のコストで、最大の成果を出せるエンジンを自ら開発できるから。技術をしっかり追い込むと、いろんな展開ができる」と島澤氏は語る。
最後、島澤氏はエンジニアへのメッセージ。「生成AIの普及によって、エンジニアは知識を得ることが簡単にできるようになったと思います。世の中のセオリーはおおよそ手に入る。ここからはなにを視点にモノづくりするかを決められる『視点力』を持ったエンジニアが重要になる。その1つが性能。性能を徹底的に引き出すのは、まだAIには難しい。人間が論点設定して、はじめて実現する領域がエンジニアリングの世界には多い。そんな論点設定できるエンジニアを今後も育てていける人でありたいし、会社でありたい」とまとめた。
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