Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第9回
【慶應義塾大学准教授・岩尾俊兵氏】老舗企業に眠る500兆円市場を再起動せよ。気鋭の学者が社長として仕掛ける「日本覚醒プラットフォーム」
「不条理」を「資源」に変える、逆境からの都市経営論
玉置: 続いてのテーマですが、先ほどの話とも直結する「不条理を資源に変える」「ピンチこそチャンスである」という視点についてです。
少し自分に引き寄せて言うと、私は新聞記者時代、よくクレームの電話がかかってきたんですよ。みんな受けたくないわけですが、私は新人だったので一番に電話をとっていました。出るとおっちゃんとかが1時間、2時間くらいクレームを言い続けるんです。でも、クレームしてくる人って何かすごく強いモチベーションがあるからかけてくるわけで、よくよく聞いてみると、すごく意味があったりするんですよ。
2時間くらい聞いていると「あ、何か実際の問題があるな」と分かってくる。その人の思い込みや妄想もあるんですが、実際の社会問題が潜んでいることも多々あって、私、結構それで特ダネをいっぱい書いているんです。
岩尾: なるほど。
玉置: そういうクレーム電話が逆に何かの気づきになる。街中で取材していても、みんなから嫌がられている「付き合いにくい人」と付き合うのが私はすごく得意で、割とそこから色々なチャンスが広がってくる経験がありました。
岩尾さんが著書で仰っている「個人の逆境を経営的に再解釈して価値に変える」「都市の負の遺産や不条理をあえてイノベーションの最高のリソースに反転させる」という、日本覚醒プラットフォームの「逆境のレバレッジ」にも近いお話を、もう少し詳しく教えてもらえませんか。
岩尾: はい。人生でもビジネスでも、逆境やマイナスって山ほどありますよね。自分とどうしても合わない人もいれば、マイナスな出来事もいっぱいある。その時に大事なのは、「どんな人にも、どんな出来事にも、必ず強み(プラス)がある」とまず思うことなんです。
はっきり言って、動物は何にも苦しまずに毎日楽しく生きて羽ばたいて、生を享受しているわけです。最近、私は聖書やコーラン、仏教などの本を読んでいるんですが、どの宗教も結局「すべてのものは存在しているだけで神の証明(生きているだけで素晴らしい)」と言っているんですよね。人間だけが、頭(理性)が強くなったせいで、本能や、内側から湧いてくるエネルギーを感じられなくなって、勝手にマイナスを感じて苦しんでいる。
人間が思い込んでいるだけなのだから、逆に思い込めば必ずプラスも見つかるはずなんです。だから、一見嫌だなと思う人でも、頑張って「いいところ探し(良かった探し)」をする。
玉置: クレームの奥に意味を見つけるようなものですね。
岩尾: ええ。私も結構「厄介者」と仲良くなるのですよ。誰も知らない独自の情報を持っていたりしますからね。半分くらい陰謀論だったりしますけど(笑)。
玉置: わかります、わかります(笑)。
岩尾: エリートだけの世界だとだんだん話が詰まってくるんですが、そういう人からは聞いたこともない話が出てくる。「予定調和じゃない」ということです。どんな出来事でも「学びになった」というプラスは必ずある。悪いところは次の一手で打ち消せばいい。精神的に元気な時にしかできないことですが、冷静になって良かった探しをすれば、全ては価値創造の源になるんです。
限界集落や被災地すらも「イノベーションの実験場」になる
玉置: その考え方を、人口減少やインフラ老朽化といった、都市や国という大きなスケールで考えた時にも同じように適用できるのでしょうか?
岩尾: できると思います。例えば過疎化がどんどん進んでいる状況で「いいところ」を探すとしたら、人が少なくなっている分、ある意味で「チャレンジはしやすい」ですよね。人が密集していれば様々な調整が必要ですが、人がいなければロボットやドローンを動かしてみるといった新しい試みが、しがらみなくやりやすいはずです。
玉置: 去年一昨年、私が福島へ視察に行ってきた時にも同じことを感じました。居住困難区域が解除されても、元々住んでいた人はなかなか戻ってこない。でも、そこに「元々住んでいなかった新しい人たち」がやって来ているんです。
例えば、ワイン農園を作っていたり、現代美術家の宮島達男さんが震災の記憶を残すために《時の海-東北》という大きなプールの作品を作ろうとしていたり。超マイナスからのスタートなんですが、もう1回そこで生活できるとなった時に、色々なトライアルが起きている。取材の最後に行われた100人ほどの規模の打ち上げで、街づくりの専門家でもない若者たちが20人くらい「私はこんなことやってます!」と次々にプレゼンしているのを見て、すごく感動しました。
岩尾: いや、本当にそうだと思います。私の実家がある佐賀県の有田町でも、そういう変化が起きています。昔は有田焼の利権もあって、長老みたいな人たちがガチッと上を抑えて、若い人に挑戦させなかった。でも今はもう過疎化が進んで諦めムードになり、「戻ってきてくれるなら何でもやっていいよ」という空気になっているんです。
玉置: 有田って今、そんな感じなんですか。だいぶ変わりましたね。
岩尾: 若い人たちも「やりやすくなった」と言っています。色々と大変なことはあっても、若い人同士で一致団結して新しいことをやっていますよ。
玉置: 面白いですね。実はアスキーでも、佐賀県への移住計画を3、4年ほど応援していたことがあって、アスキーの社員が短期間ですが、実際に佐賀に住んだりしました。
私も、九州ウォーカーの編集長をしていたころは、唐津焼を代表する陶芸家の中里家と付き合いがありまして、唐津焼きの名門12代中里太郎衛門の5男であり、日本を代表する陶芸家の一人でもある中里隆さんの娘さんの中里花子さんの窯起こしに行ったりしていました。唐津には「洋々閣」という歴史のある宿があって、そこが中里家の応援団になっていたりするんです。
岩尾: へえー、知らなかった。面白いなぁ。地方の伝統産業が「若者が外へ出てしまう」という不条理を抱えながらも、そこを逆手にとって新しいコミュニティや価値を生み出し始めている。まさに不条理が資源に変わる瞬間です。
見世物パンダからの脱却と、20年後の「経営する市民」
玉置: 最後に未来のお話を伺います。岩尾さんの著書『13歳からの経営の教科書』のように、子供の目線から見て、20年後の街はどうなっているべきでしょうか。
今、地方創生などで「若者が街を作っている」と言いつつも、実際は「見世物パンダ」的に若者をオモテに出しているだけで、裏で権力を握っているのは年長者、というケースが往々にしてあります。次世代が「消費する市民」から「街を経営する市民」へ覚醒し、街づくりに手触り感を持つためには、どうすればいいのでしょうか。
岩尾: 私が提唱する「経営マインド」を持った人がどんどん増えていけば、街は確実に変わります。今、13歳に向けて小説を書いたり、それを漫画にしたりと色々考えているんですが、実は最近「もっと早い方法があるんじゃないか」と思っていまして。
玉置: もっと早い方法、ですか?
岩尾: はい。AIに経営マインドを学習させて、「AI経営メンター」のようなものを作り、それを無償で配ってしまうのが一番早いんじゃないかと考えているんです。人間が横についてイチから教えるのではなく、AIが伴走して若者たちの思考をサポートする仕組みです。
玉置: なるほど! AIの経営メンターがいれば、若者も大人の顔色を窺わずに、主体的にプロジェクトを進めやすくなりますね。
「金の亡者」か? 手垢のついた「経営」という言葉をイノベーションする
岩尾: ええ。ただ、こうした話をすると、一般の方からは「それは経営というより、マネジメントの話ですね」とよく言われるんです。
「マネジメント」というと、セルフマネジメントやチームマネジメントのように良いイメージを持たれやすいのですが、「経営」という言葉はすごくイメージが悪い。「経営者」というと、「金の亡者」とか「悪いことをして儲けている」みたいなネガティブな反応をされることが多いのです。
玉置: 確かに、「マネージャー」と「経営者」では世間の受け取り方が違いますね。岩尾さんはあえて「経営」という言葉の本来の夢や意味を復活させようと、言葉自体をイノベーションしているわけですね。
岩尾: おっしゃる通りです。「経営」という言葉にはすでに手垢がついていて、マイナスなイメージがいっぱいあります。でも、あえてそこにこだわり、その意味をガラッとプラスに反転させることができた時、世の中に与えるインパクトはものすごく大きいと思うのです。
『経営教育』
経営の本質は「会社」だけではなく「街」や「家庭」にもある
玉置: では、手垢を落とした本来の「経営」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
岩尾: 私が言っている「経営」は、会社経営だけを指すものではありません。家庭もそうだし、個人も、国家も、学校も、病院も、そして「街」も、すべてに経営があります。
その本質は「みんなで豊かになる」ということです。じゃあ具体的に何をするのかというと、要素は3つしかありません。
1つ目は、誰もが「これならいいよね」と納得できる「ビジョンを示すこと」。 2つ目は、そのビジョンを実際に実現するための「手はずをきちんと整えること」。 そして3つ目は、それを「持続可能なシステムにすること」です。
玉置: 持続可能にするというのは、利益を出すということですか?
岩尾: 必ずしもお金(利益)である必要はありません。ボランティアであれば「リスペクト(尊敬や感謝)」が集まることで活動は持続できます。利益でもリスペクトでもいいので、「何らかの価値が循環していくシステムを作ること」。この3つが経営の本質なんです。
玉置: 素晴らしいですね。「ビジョン」「手はず」「価値の循環」。これらを若者たちが13歳から学び、AIのメンターも活用しながら実践していく。
そんな子供たちが育った20年後の街には、誰かに与えられたサービスを消費するだけの市民はいなくなっているでしょうね。街の不条理を見つけ、ビジョンを描き、みんなで豊かになるシステムを作っていく。若者が本当の意味で「街を経営する市民」へと覚醒した時、日本の都市OSは完全にアップデートされているはずです。本日は非常にエキサイティングなお話をありがとうございました。
岩尾: こちらこそ、ありがとうございました。
【株式会社トライアイズのホームページから社長メッセージ】
「日本はもう一度、豊かになれる。豊かになる権利と義務があるはずだ。……そう考えて、私はこれまで日本覚醒の礎になるという覚悟で歩んでまいりました。
ここで私の経歴を披露するつもりはありません。しかし、ひとつだけ確かに言えることがあります。それは、私の人生は「ようやく波に乗れたその瞬間に、波に流される安穏を捨てて次の荒波に挑戦し、危険を顧みずに事にあたる」というものだということです。
これまで、経営学者として、投資家として、上場企業社長として、すべては日本がもう一度豊かになるその日のために、経験を積んでまいりました。そして今、これまでの総決算というべき挑戦をいたします。今度の挑戦は、失敗すると私の人生(これまで得た地位・名誉・財産)のすべてを失うものです。だからこそ、痛みを伴い、実行の責任を果たせると思っております。
当社はこれから「日本覚醒プラットフォーム」を掲げます。そして、資本市場における総合ディベロッパーのような唯一無二の存在を目指していきます。具体的には、好業績ながら低PBR(絶対条件1.99以下、理想条件0.99以下)・低時価総額にとどまる企業の成長の足かせとなる制約条件を打破するため、当社自体が株主の皆様から他企業の議決権と情報とを信任されるプラットフォームとなり、経営技術とAI技術を用いてプラットフォーム全体での価値創造を実現してまいります。
会社は色んなものを「預かる」存在です。株主から資金を預かり、お客様から信頼を預かり、従業員から人生を預かっています。人間というもの、預かったものは必ず返さなければいけません。もっと資金を預けたい、もっと信頼を預けたい、もっと人生を預けてみたい。そう思っていただける、信用のおける会社として成長していくことこそが我々の使命です。
私の思いを読んでくださったすべての方に、あらためて感謝申し上げます。」
【編集後記:玉置の眼】
岩尾俊兵という男は、一見すると端正な知を操る気鋭の経営学者だ。しかしその正体は、逆境(sensory)な荒波を独力で泳ぎ抜き、自衛隊の規律と肉体労働の痛みを知り、ついには「東大初の経営学博士」という牙城を崩して見せた、稀代の「越境者」である。
彼が語る「改善(Kaizen)」や「日本覚醒」が空虚なスローガンに聞こえないのは、それが紀尾井町の最前線で、140年の伝統とAIを接合させ、実際にブランドを、そして日本を再起動させるための「実装」だからだ。
「世界は経営でできている」――。
2026年、混迷を深めるこの国の都市OSを、彼は冷徹な理論と情熱的な実践で、鮮やかに書き換えていくだろう。その「覚醒」の現場に、我々ASCIIもまた、未来を共に創る仲間として並走し続けたい。
●玉置泰紀(たまき やすのり)プロフィール 1961年大阪府生まれの編集者、プロデューサー。同志社大学卒業後、産経新聞記者、福武書店(現ベネッセ)を経て角川書店に入社。「関西ウォーカー」など4誌の編集長や総編集長を歴任した。現在は角川アスキー総合研究所に所属し、「エリアLOVEウォーカー」総編集長を務める傍ら、国際大学GLOCOM客員研究員や京都市埋蔵文化財研究所理事、東京文化資源会議幹事、国際文化都市整備機構理事など、地域の文化・観光振興に幅広く携わっている。
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