Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第9回

【慶應義塾大学准教授・岩尾俊兵氏】老舗企業に眠る500兆円市場を再起動せよ。気鋭の学者が社長として仕掛ける「日本覚醒プラットフォーム」

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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改善の真実:人間の頭と体の中にある「油田」

玉置: その「考え方を変える」ための核となるのが、岩尾さんの代名詞でもある「改善(Kaizen)」ですね。世間一般の「無駄をなくす」というイメージとは少し違うように感じます。

岩尾: まったく違います。私が言う改善は、内向きに無駄を切り捨てて縮小していくものではありません。根本に「みんなで豊かになる」という哲学があります。

 改善とは、既存のシステムの組み合わせを変えることで、今まで以上の価値を生み出す状態にすることです。その「組み合わせを変える力」は、私たち人間の頭と体の中にあります。つまり、地球の資源を組み替えて豊かになるための「油田」や「金脈」を、みんなが自分自身の体や頭の中に持っているんです。

トヨタの「追い出し部屋」? 一見無駄な歩きが起こすイノベーション

玉置: トヨタ生産方式の研究で、その「本当の改善」を解明されましたね。

岩尾: トヨタと他社とでは、改善から得られる成果に圧倒的な差があります。他社では「改善は製造現場」「イノベーションは開発部門」と分断されていますが、トヨタでは現場の改善が、時として凄まじいイノベーションに変わるんです。

玉置: なぜトヨタだけが、改善をイノベーションに昇華できるのでしょうか?

岩尾: 理由はいくつかありますが、一つは「ライン内スタッフ」の存在です。トヨタには、理系大学院を出た優秀なエンジニアを、ただ現場でブラブラ歩かせるだけという「技術員室」という謎の仕事がありました。他社から見れば無駄すぎて、「追い出し部屋なんじゃないか」と言われるほどです。しかし、追い出し部屋なら新卒を送り込むはずがない。ここには何かがあると考えて、私は実際にトヨタの高岡工場で1ヶ月間、技術員として働きながら観察しました。

玉置: その「ブラブラ歩くエンジニア」は、実は何をしているんですか?

岩尾: 彼らはただ歩いているわけではありません。彼らは大学時代のつながりや同期とのつながり、あるいは仕事の中でのつながりで、本社のエンジニアたちと「知識のネットワーク」を持っています。その状態で現場をぐるぐる歩き、現場の悩みを見た時に、「ここに本社のあの技術を入れて一緒にやれば解決するんじゃないか」とつなぎ合わせるんです。

 その瞬間、ただの「改善」が弾けて、突然イノベーションが起こる。それが年に1回とか、3年に1回のペースで現場から生まれる仕組みができているんです。

玉置: なるほど! 私は以前「東海ウォーカー」という雑誌の編集長を名古屋で5年ほどやっていて、当時はトヨタやホンダとすごく付き合いがあったんです。ホンダの人と会うと、びっくりするぐらいトヨタを高く評価しているんですよね。会社規模に対する研究投資の比率が一番高いのはホンダとトヨタで、あの規模になっても途方もない研究投資を行っているという意味で賞賛していました。僕の印象では、トヨタはある種の「国家内国家」のような特異な存在だと感じていました。

岩尾: おっしゃる通りです。トヨタという会社は、お金儲けはもちろんですが、無駄を省いて何か新しいことをやるという「改善」から得たお金で、生産技術や製品開発に途方もない研究投資を行っています。本当に国家内国家のような、目標が普通の会社とは少し違う感じがしますよね。

 そういう圧倒的な研究投資(専門知)と、現場の改善が、あえて無駄に見える人間を媒介して繋がる。この「セレンディピティ(偶発性)」の回路こそが、会社だけでなく、これからの「街づくりのOS」にも不可欠なのかもしれませんね。

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