ナノテクはどこへ行った? 20年以上たって、製造業の「本命用途」が見えてきた
年末にシャワーヘッドを替えて「ナノ」の良さを実感
先日、お風呂のシャワーヘッドが壊れた。せっかくなので、最近よく見かけるマイクロバブル対応のものに替えてみた。ナノ〜マイクロサイズの気泡が汚れに吸着しやすいらしい。正直そこまで期待していなかったのだが、使ってみると肌あたりがやわらかく、髪のまとまりも悪くない。なるほど、これがナノテクノロジーか。
ところで「ナノが製造業を変える」話はどうなった?
ナノテクは、洗剤や化粧品などですっかり身近な存在になった。でも、ちょっと思い出してほしい。カーボンナノチューブやグラフェンが発見された当時、「製造業が一変する」「シリコンに取って代わる」と世界中で大騒ぎになった。
あれから20年以上経つが、PCやスマホの中身は、今も普通にシリコンで動いている。あの話は、結局どうなったのだろうか。
高性能すぎて、工業製品にならなかった
その答えは、意外と身もふたもない。性能はすごいけど、工業的には扱いにくかったからだ。均一に作れない、量産すると性能がばらつく、コストが合わない。半導体製造が嫌がる条件が、だいたい全部そろっていた。
そもそも、カーボンナノチューブやグラフェンは、ナノサイズの「構造そのもの」を作る技術だった。一方で、シャワーのナノバブルやナノ洗剤は、物質そのものを作り替えるのではなく、「サイズを小さくする」ことで性質を引き出す技術だ。
ナノ粒子を、普通に使える形にする
その「サイズを小さくするナノ」を工業に取り戻そうとしているのがNanoFrontier株式会社だ。同社が掲げているのは、「限られた人しか使えない高価で複雑な技術ではなく、誰もがアクセスできるシンプルで安価な技術」。アカデミア発としては、ずいぶん現実的なメッセージに聞こえる。
NanoFrontierの中核技術は、東北大学で長年研究されてきた「再沈殿法」を改良した、化合物のナノ粒子化技術だ。
ポイントは、物質の構造や性質を壊さずに、サイズだけを小さくする点にある。従来は水に溶けず扱いにくかった有機化合物でも、分子そのものは変えず、粒径を数十ナノメートル単位で精密に制御し、溶液中に安定して分散させられるという。
ナノサイズになることで表面積が増え、反応もしやすくなる。要するに、材料を別物に作り替えるのではなく、もともとの力を引き出して使いやすくする技術だ。
このナノ粒子は、量産しやすく、用途に合わせて使い回せるのが特徴だ。水中の微量な汚染物質を検出したり、電池のムダな漏れを防いだり、データセンターの冷却効率を上げたり、水素を安全に運んだり、抗がん剤の副作用を抑えたりすることを狙っているようだ。
時間をかけた研究が社会に出ていくディープテック
どれも「ナノで世界をひっくり返す」話ではない。ただ、製造業の現場で“ちゃんと使える素材”としての出番は、むしろこれからだ。
もちろん、ここに来るまでには時間がかかっている。中核技術は、東北大学で約30年にわたって積み重ねられてきた研究成果だ。ナノテクは「期待外れだった」と言われがちだが、単に時間が必要だっただけ、とも言える。
NanoFrontierの取り組みも、ディープテックが社会に出ていくまでの長い時間の中で、ようやく見えてきたひとつの答えなのかもしれない。
















































