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【汗だけで体質がわかる】牛乳から血液、分子分析まで。“分ける技術”の最前線

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

人はなぜ「分ける」のか

 自宅でカフェラテをつくるとき、ミルクをかき混ぜすぎて脂肪が分離してしまうことがある。牛乳も、もともとは牛の体液。血液から栄養を受け取ってできており、水分の中に脂肪やタンパク質などさまざまな成分が溶け込んでいる。人は昔から、この「分ける技術」を使って成分を取り出したり調べたりしてきた。

電源いらず。ぶんぶんゴマでマラリア診断

 血液検査も「分ける技術」の代表格だ。遠心分離機で血液を回すと、赤血球や血しょうに分けられ、病気の有無や体調をチェックできる。

 ただし一般的な遠心分離機は大きくて高価、しかも電源が必要だ。そこでスタンフォード大学の研究チームは、懐かしの玩具「ぶんぶんゴマ」を応用。紐を引っ張って回すだけの手回し遠心分離機で血液を分け、電源なしでもマラリアの寄生虫を検出できる装置を開発したのは有名な話だ。

にじむインクから医薬品まで。“クロマト”が拓いた世界

 もうひとつの生体分析によく使われるのが、液体クロマトグラフィー。高校の理科で実験したひともいるかもしれない。インクをにじませ、色を分けるあの手法だ。

 この原理を発展させた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、分子レベルで成分を分けることができ、医薬品や食品、環境分析まで、研究現場を支えている。

弁当箱サイズのラボで、汗から体質を丸見えに

 分離技術の進化は、研究室でしか扱えなかった大型機器をどんどん小さく、身近にしてきた。その最前線にいるのが、大阪大学発スタートアップの株式会社PITTANだ。

 同社が開発した小型分析器「Pitagoras(ピタゴラス)」には、特許取得済みの超高速・高効率自動成分抽出機構(SCT)と自動試薬反応機構(MPT)が搭載されている。サイズはわずか18cm四方の卓上型だが、研究室のラボ機器に匹敵する分析能力を備える。使い方はシンプルで、肌に専用パッチを貼って汗を採取し、装置にセット。10分ほどで分子レベルまで解析できるという。

PITTANの小型分析器「Pitagoras」

 この技術をサービス化したのが、汗分析キット 「Nutrifull」だ。微量の汗からアミノ酸や代謝物を解析し、栄養状態や体質の特徴を“見える化”する。将来的には、このデータをもとに栄養や運動に対する個別アドバイスに発展させる構想もあるそうだ。

「分ける」は文化なのだ

 血液検査のような痛みがなく、尿検査や検便のような恥ずかしさもない。感染症の検査などに使われる唾液も高齢になると量が出づらくなる。だからこそ、勝手に出る汗、しかも微量というのはありがたい。

 分ける技術は、食の楽しみから病気の検出、そしてパーソナライズされた健康や栄養管理まで私たちの快適な暮らしを支えている。混ぜすぎた牛乳や沸かした出汁が分離したとしても、ありがたく、おいしくいただこう。


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