そしてインターネットは“安全”になった。量子接続が描く新しい通信インフラ
爆発する情報リスクから「量子」が助けてくれる
SNSで個人情報がダダ漏れ、企業の機密がハッキングされ、偽サイトに誘導される……。便利になったはずのデジタル社会は、今や「リスクだらけ」だ。でも、その構造を根本から変え得るのが「量子コンピューター」である。
例えば、量子暗号通信によって「盗聴できない」データ送信が可能になる。“リスクありき”で設計されてきたインターネットの構造を、根底から更新する可能性を秘めている。
いまはPCの黎明期に似ている
とはいえ、「量子コンピューターなんて夢の話だろう」「数十年はかかるって聞いたぞ」――そう思う人も多いはずだ。実際、いま世の中に存在する量子コンピューターは、小規模で不安定。誤作動も多く、スマホやPCのように気軽に使える代物ではない。
だが、量子の時代はすでに始まっている。IBMやGoogleはクラウド経由で実機を公開し、Python対応のフレームワーク(QiskitやCirq)で量子アルゴリズムの設計も可能だ。
1970〜80年代のPC黎明期のように、未完成だからこその熱がある。世界中の研究者が“次の常識”を模索している。
「つながっていない量子コンピューター」問題
現在の量子コンピューターは、それぞれが独立した装置として開発されており、ネットワーク化されていない。各社が異なる技術方式を採用し、量子ビットの構成や操作方法にも互換性はない。いわば、インターネットにつながっていない時代の初期パソコンのような状態だ。
1台ごとの性能向上には取り組まれているが、複雑な問題を効率よく処理するには、量子どうしをつなぎ、計算負荷を分散できるインフラ=“量子ネットワーク”が必要になる。
この「量子がつながる世界」、すなわち量子インターネットの実現に向けて、一手を打とうとしているのが、早稲田大学発スタートアップ、株式会社Nanofiber Quantum Technologies(NanoQT)だ。
「つながる量子」に挑むNanoQT
量子コンピューターは、いまだ技術方式が定まっていない。超伝導、イオントラップ、光、中性原子……それぞれに長所と課題がある。そんな中、NanoQTが採用したのは、中性原子と光を組み合わせた「ナノファイバー共振器QED方式」。量子ビットとして用いる中性原子を、光ファイバー状のナノ構造の上に“浮かせる”ように配置し、精密に制御する仕組みだという。
この方式の利点は、既存の光通信インフラとの高い親和性にある。量子ビットを構成する中性原子と、データを運ぶ光ファイバーが、物理的に自然につながる構造だからだ。さらに、低損失・高拡張性といった特性も持つ。
NanoQTが目指すのは、量子チップを単体で高性能にするのではなく、複数の量子ユニットをモジュール化し、光ファイバーでつなげるというアーキテクチャだ。 つまり、最初から「通信を前提にした量子コンピューター」なのである。
量子インターネットの中継装置に
量子インターネットとは、量子もつれを介して量子コンピューター同士を接続し、盗聴不可能な通信や分散処理を可能にするネットワークだ。すべての通信内容は量子の状態として扱われ、途中で観測されれば即座に破壊されるため、抜き取ることができない。
この未来を実現するには、「量子ノード」や「量子リピーター」と呼ばれる中継装置が不可欠になる。そしてNanoQTの技術は、まさにこの“つなぐ部分”に強みを持つ。
中性原子と光を高効率に接続する技術は、量子ネットワークを構成する基本ユニットとして、今後の量子通信インフラに応用が期待されている。
パソコンが電話回線でインターネットにつながったように、次は量子が“つながる時代”がやってくる。その接続点を担うのは、NanoQTかもしれない。














































