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川崎市に設置の量子コンに最新プロセッサー導入、性能向上とエラー率を低減

来たる「量子中心のスパコン」時代 東大とIBM、156量子ビット量子コンとMiyabiを接続

2025年05月20日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 東京大学とIBMは、2021年に、超伝導方式の量子コンピューター「IBM Quantum System One(名称:kawasaki)」の稼働を開始した。今回、kawasakiの2度目のアップグレードとして、156量子ビットの「IBM Heronプロセッサー」を導入、性能向上や量子ビットのエラー率低減を図る。さらには、スーパーコンピューター「Miyabi」との接続環境を、2025年後半より開始予定だ。

 東京大学 総長である藤井輝夫氏は、「156量子ビットへの拡張とMiyabiとの接続は、大きな意義を持つ」と強調。「単に既知の問題を高速に解くだけではなく、ロジスティクスの最適化や金融リスク管理、次世代バッテリーや新素材の発見、再生エネルギーの飛躍的な向上など、未踏の問題を解決できる可能性すら秘めている。日本の量子戦略における新たな技術の創出と、量子科学の学理探求をさらに推し進めたい」と説明する。

東京大学 総長 藤井輝夫氏

「Heron」プロセッサーで処理性能はさらに向上、量子ビットエラーも低減

 東京大学とIBMの取り組みは、2019年に締結した、量子コンピューティングの技術革新と実用化のための産学共創パートナーシップから始まっている。

 2021年には、27量子ビットの「IBM Falconプロセッサー」を搭載したkawasaki(IBM Quantum System One)を、かわさき新産業創造センター(KBIC)にて稼働開始。東京大学を中心に設立されたコンソーシアム「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)」の参画企業らは、kawasakiを利用して研究開発に打ち込み、数多くの学術論文を発表するなど成果を上げてきた。

かわさき新産業創造センターに設置されるIBM Quantum System One(日本IBMのブログより)

 2023年には、kawasakiを127量子ビットの「IBM Eagleプロセッサー」にアップグレード。そして今回、2025年9月を目途に、156量子ビットのIBM Heronプロセッサーを搭載することを発表した。Eagleプロセッサーのときと比べて、処理性能が10倍以上向上するほか、量子ビットのエラー率も5×10⁻⁴未満にまで改善できるという。

 Heronプロセッサーについて、日本IBM 代表取締役社長である山口明夫氏は、「量子ビット数、量子ビットのエラー率、量子演算の処理速度、この3つの観点で世界最高水準の性能を備えている。大規模なアプリケーション、アルゴリズムの研究に、ますます果敢に挑戦できる」と説明する。

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫氏

“量子中心のスパコン”の世界に向け、「Miyabi」との接続を2025年後半より開始

 また、量子コンピューター自体の性能向上に加え、“スケールを横に広げる”取り組みとして、スーパーコンピューター(スパコン)との接続も開始する。

 これまでも、QIIのメンバーでもある理化学研究所(理研)と連携して、量子コンピューターとスパコンをつなぐ、新しい計算手法の開発を進めてきた。2024年には、Heronプロセッサー搭載のIBMの量子コンピューターと理研のスパコン「富岳」をつなぎ、鉄硫黄クラスターの計算において、古典的な計算方法(CISD)の精度を上回る成果を得ているという。

 そして、2025年後半には、Heronプロセッサーを搭載したkawasakiと、東京大学と筑波大学が共同構築したスーパーコンピューター「Miyabi」との接続環境を提供開始する。Miyabiは、「NVIDIA GH200 Grace-Hopper Superchip」を搭載することでAIの処理性能を高めており、量子コンピューターとAI開発をつなげる“量子AIコンピューティング”の研究を進展させていく。

 東京大学の理事・副学長である相原博昭氏は、「量子コンピューターが持つ高次元空間を用いた、量子状態のサンプルをもとに、Miyabi上で機械学習を実行することで、未知のデータに対する予知能力を飛躍的に高められる」と説明。加えて、Miyabiによって、量子回路自体を最適化して、より複雑な量子計算のためのアルゴリズムも開発していく。

東京大学 理事・副学長 相原博昭氏

 この先には、kawasakiや理研に設置されるIBMの量子コンピューター、そして、富岳やMiyabiをつなぎ、複数の量子コンピューターとスパコンが連携する基盤構築も見据えている。これらにより、従来の手法では困難であった、複雑な社会課題の解決を加速させていく意向だ。

 日本IBMの山口氏は、「量子コンピューターと従来のスパコンをより強固にしていくことで、2年以内に従来スパコンの能力を大きく超える成果も得られると推測している。『量子中心のスーパーコンピューター(Quantum-Centric Supercomputing)』の世界を実際に実現していきたい」と意気込みを語った。

フォトセッションの様子(左:東京大学総長 藤井輝夫氏、右:日本IBM 代表取締役社長 山口明夫氏)

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