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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第11回

【JSTnews6月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)/研究課題「近接場テラヘルツ励起プローブ顕微鏡による1細胞・1分子分光イメージング解析とその応用」 研究課題「医工融合による低侵襲・高解像な感音難聴の精密診断の実現」

テラヘルツ波で内耳蝸牛を観察、難聴など耳の病気の診断に期待

2025年06月11日 12時00分更新

文● 中條将典

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 難聴の多くは、耳の奥にある音をつかさどる器官である内耳蝸牛(かぎゅう)の障害が原因とされています。内耳蝸牛は頭蓋骨深部にあるため、光計測では骨を透過できず、X線撮影では被ばくのリスクがあり、内部の観察が困難です。可視光と電波の中間帯に位置するテラへルツ波は、内部を被ばくさせずに観察できることから、安心安全な技術として注目されています。しかし、波長は約300マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルであり、それより小さなマイクロメートルレベルの対象物は観測できませんでした。

 早稲田大学大学院情報生産システム研究科の芹田和則准教授および神戸大学医学部の藤田岳准教授らの研究チームは、マウスを用いた実験により、テラへルツ波を利用して内耳蝸牛を観察しました。研究チームは、非線形光学結晶にフェムト(フェムトは1000兆分の1)秒オーダーの短い時間だけ強いレーザー光を照射すると、テラヘルツ波が局所的に発生して点光源として扱えることに着目。点光源から発生したテラヘルツ波が、蝸牛内部で反射して戻ってくるまでの時間を測定して距離や形状を調べる独自の手法と、機械学習を利用した画像解析法を開発しました。これらを適用することで、内耳蝸牛内部の3次元構造をマイクロメートルレベルで初めて可視化し、断面観察にも成功しました。

 今回の成果により、難聴を含む耳の病気の詳しい診断が実現し、耳の障害を早期に発見できるようになる可能性があります。さらに、生体内でのさまざまな診断や、テラへルツ波を利用した新しい内視鏡や耳鏡など医用デバイスの開発が進むことも期待されます。

内部構造を可視化できており、断面の観察も可能。右上のように赤い矢印の方向に連続して観察していき、平面の画像を再構築することで3D画像が得られる。右下は実際に得られた平面の画像の一部。

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