【JSTnews6月号掲載】NEWS&TOPICS 研究成果/創発的研究支援事業(FOREST) 研究課題「圧力・温度自動応答スマート流体による資源開発革命」
新たな岩石の破砕法で地下資源開発のコスト低減の可能性
2025年06月10日 12時00分更新
新しい資源として注目されているシェールガスの掘削や、地球温暖化対策の1つである二酸化炭素の地下貯留などでは、地下の流体を流れやすくすることが効率の良い手法につながります。地面に掘った縦穴を通して数キロメートルの地下に高圧の流体を流し込み、その圧力で岩石を破砕して人工的に割れ目を作る水圧破砕は、カギとなる技術です。しかし、従来の水圧破砕の手法では、割れ目の方向は地下の状態により一方向に決められ、それ以外の方向に作ることはできませんでした。
東北大学流体科学研究所の椋平祐輔准教授らの研究チームは、粘性が速度によって劇的に変化する「せん断増粘流体」と呼ばれる機能性流体を用いて、花こう岩から作った岩石試験片を破砕する実験を実施。試験片に空けた縦穴から多方向に割れ目を作ることに成功しました。せん断増粘流体は、微細な粒子が溶媒中に分散し、外からの力に対して集合体を作っており、それによる抵抗で粘性が増します。地下の環境では、流速が速くなると一時的に固化します。同チームは、流体が固化する際に大きな圧力が生じ、多方向に割れ目ができたと考えています。
同チームが開発した手法によって、今までアクセスできなかった地下資源を回収できるようになるほか、地熱開発のように資源の貯留部が不均質に分布している状況でも貯留部に到達しやすくなり、掘削コストを下げられる可能性があります。さらに、近年ますます掘削深度が深くなっている鉱山開発での安全対策など、さまざまな分野への応用も待たれます。

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