ライブ会場で活躍する「新しい音声中継車」
【スゴい】WOWOWが「動く」レコーディングスタジオを運用開始、7.1.4chやハイレゾ制作にも対応
2025年04月14日 15時00分更新
WOWOWは4月11日、最大96kHzのハイレゾフォーマットや最大7.1.4chのイマーシブオーディオのミキシング/モニタリングに対応した「新音声中継車」をメディア向けに公開した。
TM NETWORKの横浜アリーナライブで初稼働
この中継車は、4月8日と9日に横浜アリーナで開催された、TM NETWORK 40周年の集大成的ライブ「TM NETWORK YONMARU+01 at YOKOHAMA ARENA」の収録で初稼働。ライブの模様は5月31日21:00からWOWOWプライムで放送される予定だ。
WOWOWはすでに保有している従来の音声中継車に、この新しい音声中継車を加えた2台体制で運用を続ける。また、子会社のWOWOWエンタテインメントを通じて他社への車両/スタッフの派遣も請け負い、月10現場程度の稼働を目指すという。
用途としては、ライブやフェスといった音楽コンテンツの制作を主に考えているが、国際大会のスポーツ中継など、サラウンド音声の臨場感が活かせるコンテンツでの活用も視野に入れている。
放送だけでなく、ネット配信や劇場中継なども視野に入れた機材
WOWOWが音声中継車を新造するのは2009年以来で約15年ぶり。発注から納入までコロナ禍を跨いでの製作となった。
この期間、音楽やコンテンツを巡る環境は大きく変化した。高音質な音声を届ける媒体は放送やBDなどのパッケージ以外にも広がり、オンラインライブなども増えている。ハイレゾやイマーシブオーディオに対応したライブ制作のニーズは確実に上がっているとWOWOWは考えている。
例えば、ライブの熱狂を会場とは離れた映画館で楽しめる「ライブビューイング」や「ディレイビューイング(アーカイブ上映)」、Apple Musicのように、Dolby Atmosにも対応した「ハイレゾストリーミングサービス」などが考えられる。
また、WOWOWも放送主体の提供だけでなく、ネットを通じたオンデマンド配信、あるいは劇場用映画製作レーベルの「WOWOW FILMS」を通じたコンサートの劇場上映などに積極的だという。昨年秋にはKORGのLive Extremeを活用し、13.1chのAuro-3Dで「JAZZ NOT ONLY JAZZ」のイマーシブ配信をする新しい試みにも取り組んだ。
新しい音声中継車は、こうした音楽コンテンツをめぐる多様な状況に合わせ、ライブ会場で最新のイマーシブフォーマットを扱える環境を提供するために開発されている。
1台に2つのスタジオ、Room-Bは車体の幅が迫り出して広がる!
幅2.945×長さ10.87×高さ3.57mと大型の車体の中には2つの独立したモニタリング環境がある。7.1.4chのモニタリングに対応したRoom-Aと5.1.4chのRoom-Bだ。ともにSolid State Logicの「System T」(それぞれS500 64フェーダー/S300 32フェーダー)を導入し、Danteを使ったIPベースの伝送に対応、チャンネルベースのミキシングが可能となっている。
また、Danteを使用したことにより、WOWOW局内のスタジオと直接繋いだ編集作業、視聴室内でのリアルタイム再生など、幅広い応用も視野に入れているようだ。
Room-AとRoom-Bはどちらもメインスタジオとして使用できるようになっているが、車体のスペースには限りがある。そこで、Room-Bは壁面が外側に迫り出して、内部の空間が広がる拡幅機能を取り入れた(幅は2.945mから3.75mに伸びる)。
走行時の幅を抑えつつ、現場で作業する際にはRoom-Aと同等の居住性を確保できる合理的なつくりだ。20トンを超える大型の車両の移動では特殊車両として申請が必要になる場所もあるが、Sytem Tの導入は車両の軽量化にも寄与しているという。
Room-AとRoom-Bは独立したプログラムの制作が可能で、例えばRoom-Aでイマーシブコンテンツのミックスをする一方で、Room-Bではテレビ向けの音声調整をするといった分業ができる。すでに書いたように、どちらもメインの環境として運用できるため、音楽フェスなどで同時に開催されている2つのステージの音声制作を同時にこなすこともできるという。
また、二つのスタジオには、二重化による冗長性や信頼性の確保という側面も持つそうだ。信号伝送、電源の二重化に加え、機材/制作環境の冗長化もできることになる。電源に関しては、後方にUPSも装備しており、瞬断のほか数分の停電にも耐えられる仕様になっている。また、ディーゼル発電機も装備しているため、電源が取れない環境では単独での運用もできる。
中を覗いてみると、その様子はレコーディングスタジオが部屋ごと移動するような圧巻の内容。Room-Aでイマーシブコンテンツの音を聞けた。ニアフィールドで聞く7.1.4chの再現は空間の広さ(特に高さ)を感じさせるもので、とても印象的だった。また、車内とはいえ3〜4名が入って作業できる十分なスペースが確保されていた。
7.1.4chの制作は劇場のDolby Atmos上映などラージフォーマットとの相性も良いはず。この中継車の活躍で、離れた場所、あるいは時間の隔た理を超えてライブの熱狂が楽しめる状況が増えるのだとしたら、とても楽しみだ。

Room Aのモニタースピーカーはムジーク(musikelectronic geithain)で構成。L/C/Rchに「RL933K」、サラウンドチャンネルに「RL906」を使用し、7.1.4chの再生が可能。一般的な機器でどう聞こえるかを確認するためのサウンドバーも設置されていた。

Room Bのモニタースピーカーはジェネレック(Genelek)で構成。ミッドチャンネルに「8331AP」、ハイトチャンネルに「8010」を使用して5.1.4chの再生が可能。ともにスタジオで実績があるスピーカーだが、異なるメーカーにしている点にも注目。

ネットワーク関係の機器はRoom AとRoom Bの間の通路に置かれたラックに設置されている。サーバールームのようにかなり強い冷却がなされていた。Room AとRoom Bの間の遮音性なども配慮されている。

録音機材はRoom B側に置かれていて、Room Aで扱っている音声もここで記録される。機材はラックの左側に。192chを96kHzまたは48kHzで記録できるPro Toolsがメインだが、バックアップ用に256chを48kHzで記録できるTASCAMの「DA-6400」も導入されている。

ステージボックスで入力可能なアナログチャンネルは最大288ch。従来の160chから大きく増加している。信号はDanteの非圧縮PCMデータとしてデジタル化され、会場から光ケーブルを通じて伝送される。
WOWOWの新音声中継車が搭載するシステムの主な仕様
Room-A
Solid State Logic S500 64 Faders
7.1.4ch(musiklelectronic geithain RL933K×3、RL906×8)
Room-B
Solid State Logic S300 32 Faders
5.1.4ch(Genelec 8331AP×5、8010×4)
Audio Local I/O
Analog: 32ch Mic/Line IN、24ch Line OUT、AES: 16ch IN/OUT、MADI: 28ch IN/OUT (48kHz)、Dante: 192ch (48kHz)、SDI: 8 SDI IN×8ch
Stage Boxes
Analog: 288ch (4×64Analog Input+1×32Analog Input) 、Dante: 1×HC Bridge SRC、MADI: 4×SSL MADI Bridge
Recorders
Main: Pro Tools 192ch@48kHz / 96kHz、Backup: TASCAM DA-6400 256ch@48kHz
Outboards
UAD Apollo x16D、t.c. electronic System 6000、SSL FUSION、Universal Audio 1176LN
Video Router
RIEDEL MicroN、外部⼊出⼒: 8 SDI IN / 4 SDI OUT
Intercom
RIEDEL Artist 1024、BOLERO Wireless Intercom
電源
AC100V/200V 20kVA Camlockコネクタ、発動発電機搭載(AC100V 25kVA)、UPS 4 台搭載
