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The Trump White House, Public domain, via Wikimedia Commons
米国のトランプ大統領が大統領令を出し、仮想通貨(暗号資産)の規制を見直すワーキンググループをつくった。
2025年1月23日のロイターによれば、ワーキンググループに与えられた課題は2つある。まず、既存の仮想通貨の規制を見直し、仮想通貨に関する規制を緩和すること。そして、国家の備蓄としてビットコインなどを保有する制度を検討することだ。
23日付のホワイトハウスの発表で注目を集めているのは、ステーブルコインの位置付けだ。米ドルの価格変動と連動させることで価格の安定を図るテザー(USDT)などがステーブルコインの代表格として知られているが、ステーブルコインに関する規制を緩和し、世界中で投資や決済の対象とすること目指すと見られている。
反対に、この発表には「大統領令は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の確立、発行、または推進を目的としたいかなる行動も政府機関がとることを禁じている」とはっきり書いてある。したがって、少なくともトランプ政権下の今後4年間は「デジタルドル」の発行はなくなったと考えられる。今回の大統領令を出発点として、仮想通貨をめぐる状況が一気に変化するかもしれない。
ステーブルコインとデジタルドル
トランプ政権の動きを理解するうえで、まずステーブルコインとデジタルドルについて、あらためて再確認しておきたい。
まず、ステーブルコインは仮想通貨の一種だ。その価格は、米ドルと連動する。現在、最も時価総額が高いステーブルコインは、テザー社が発行するテザー(USDT)だ。テザー社は、テザーを米ドルと連動する仮想通貨とするために、原則として発行したテザーと同額の米ドルを保有していることになっている。現在のテザーの時価総額は、日本円換算で22兆円を超えている。
この金額に相当する米ドルや、米国債、金、ビットコインなどをテザー社が保有することでステーブル(安定した)な価格を実現していることになっている。新興企業1社でそれだけの米ドルを保有できるのかという疑問も残るが、国債をはじめとした様々な資産を合計して、市場に供給しているテザーに相当する米ドルを持っているとされる。1月25日午後のレートで、1ドルは156.2円、1テザーは155.92円で、ほぼ1ドル=1テザーを実現している。
これに対して、まだ実現はしていないものの、デジタルドルは中央銀行が発行し、直接管理することになる。このため、「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれ、日本を含めた各国がその発行の可否や意義などを検討している。中国政府はすでにデジタル人民元の発行を開始し、人民元を国際的な決済の手段として拡大することを狙っている。
デジタルドルは、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)による発行が想定されるのに対して、ステーブルコインは企業などが発行体となる。ただ、世界一有名な仮想通貨ビットコインはステーブルコインではないが、明確な発行主体は存在しない。ビットコインのように、発行主体のないステーブルコインも存在する。
「米国をクリプトの中心地に」
トランプ大統領は、「米国をクリプトの中心地にする」という公約を掲げている。ホワイトハウスが公表したファクトシートによれば、今回の大統領令は、トランプ大統領の公約に沿った内容となっている。
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