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業務を変えるkintoneユーザー事例 第242回

1人で悩んでいた担当者 年度末に立ち直った3つのきっかけとは?

ヘビーなExcelをkintone化した阪急阪神不動産 迷っても「ありたい姿」があれば

2024年09月17日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 kintone hive 2024 osaka最後の事例登壇は、不動産デベロッパーの阪急阪神不動産。買取再販事業でのkintone活用は、業務管理に用いられていたヘビーなExcelファイルの移行から目指すことになったが、担当者はプロジェクトの重さに思い悩むことになる。果たして出口はあるのか? 情報の一元化とデータ可視化への道を担当者は語る。

阪急阪神不動産 住宅事業本部 ソリューション推進部 戦略統括グループ 川本樹生氏

収支や進捗はすべてExcel 転記の手間や更新漏れなど課題山積

 「複雑すぎるExcelから脱却し、情報を一元化とデータの可視化を目指す話」と題した事例セッションを披露したのは、阪急阪神不動産の川本樹生氏。まずは会社紹介と自己紹介からスタートした。

 阪急阪神不動産は総合不動産デベロッパーとして、住宅、オフィス、商業施設などを幅広く手がけ100年以上に渡って街を作ってきた。阪急電鉄、阪神電気鉄道、そして昨年優勝した阪神タイガースも同じグループだ。川本氏は入社6年目で、最初の3年は不動産の営業を経験し、その後は今回テーマとなる買取再販事業の業務改善を手がけてきた。kintone歴は1年8ヶ月くらいだという。

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 kintone導入前、阪急阪神不動産の買取再販事業では、収支や進捗などすべての管理をExcelで管理していた。ただ、事業が拡大していくと問題が顕在化した。百聞は一見にしかずということで、川本氏はそのすごいExcelを披露。とある物件のとあるステータスを表示するだけで膨大な項目が表示され、しかもステータスは現状で最大18もあり、物件によって数も異なる。案件数は事業を拡大すればするほど増え、案件ごとにファイルが発生するというカオスだ。「あるあるなんですけど、なにが新しくて、なにが正しいのか、どこから数字を拾ってくればいいかわからなかったんです」と川本氏は語る。

とある案件のとある1ステータスを表すExcelシートがすでにすごい

 課題が大きく3つ。多数の物件をExcel上でタブ分けして管理しているため、定期報告の情報に一苦労。担当者が作成した買う物件収支の最新版を都度転記する必要があった。また、仕入担当、販売担当、経理、工事担当者がそれぞれ複数のExcelファイルを使用しているため、更新漏れを起こすファイルも発生。さらに新たな判断材料として、新しい指標を足したい場合には、収支の全シートを更新する必要があり、手間と時間がかかっていた。このExcelをkintoneに移行するというのが、今回の川本氏のミッションだった。

 川本氏は、先に導入効果から披露した。まず定量的な効果としては、データの可視化にかかっていた作業時間が月で45%削減された。定性的には複数のExcelを見比べないとわからなかった事業進捗がkintone上でいつでもリアルタイムに確認できるようになった。

買取再販事業での定量・定性的な導入効果

 また、業務を理解している社内の担当者がシステムを内製化したことで、他社に外注することでは実現できないアレンジの質とスピード感で業務改善ができるようになった。当然、内製化したことで、活用のスキルが上がり、部内勉強会を何度も開催できたという。「社内で課題を持っている、kintone活用できそうな、20から50台の幅広い人たちに直接声をかけて、勉強会を何度も開くことができるようになりました」と語る川本氏は、改めてkintoneを導入するときの3年前に話をさかのぼる。

初心者にとって圧倒的に難しいプロジェクト 年度末に持ち直す

 kintone導入のきっかけはとある上司の一言。マネジメント層が管理している買い取り再販事業のさまざまなExcelファイルを、属人化しないよう、各人で触れるようにし、素早い情報共有を実現したいと要望で、川本氏にお鉢が回ってきた。ツールの選択肢はもう1つあったが、社内でガルーンを使っていたこと、利用していたデヂエが終了になること、汎用性が高いことが決め手でkintoneを選定したという。

 とはいえ、ITは完全未経験だった川本氏。右も左もわからない状態だったので、Excelファイルをひたすら印刷し、式を手書きし、構成を読み解いていた。kintoneに関しても、セミナーに出たり、ヘルプを読んで、アプリを「作っては消し」「作っては消し」を繰り返す日々。そして気がついたのは、「初心者にとって、このプロジェクトは圧倒的に難しすぎる」ということだ。

 実は導入当初もサイボウズやベンダーの営業から、「このプロジェクトは難しい」とは指摘されていたという。「でも、業務がわかっている人がやったら、なんとかなるのではないか?」ということで突っ走った結果、早々に壁にぶち当たったわけだ。そもそもExcel収支の式がわけわからず、要件定義からアプリの開発まで全部やらなければならない。しかも、誰も教えてくれないし、そもそも他の業務もあるのにkintoneをやらなければならない。推進者なのに「圧倒的なやらされ感」。後回しを繰り返した結果、気がつけば、約2ヶ月ログインしていない状態になっていたという。

推進者が圧倒的なやらされ感を持ってしまった

 こうして年度末が迫る中、ようやく立ち止まって考えたのは「いかにこのプロジェクトが重要なのかを再認識」「自分一人で考えてしまっていないか、決めつけていないか」「kintone活用によって組織内で自分の価値を出せるのではないか?」という3つのこと。これをきっかけになんとか持ち直し、川本氏も覚悟を決めた。実務担当者にインタビューをしまくり、単にExcelファイルをkintone化するだけではなく、業務フローの改善も視野に入れたことで、なんとか検証運用の開始までこぎ着けた。

 「思い返せば、ありたい姿(目標)を掲げておくことが大切だった。kintone活用は目的ではなく、あくまでも手段。ありたい姿さえあれば、チームで同じ方向性を向けるので、私のように途中でさまよっても、後戻りできる『転ばぬ先の杖』のようなものだった」と川本氏は振り返る。

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