業務を変えるkintoneユーザー事例 第118回
5人から全社員にユーザーを増やした4年間で得た3つの気づきとは?
納得するタイミングは人によって違う ABC不動産の社員がkintoneを使うまで
2021年09月15日 09時00分更新
kintone hive fukuoka 2021の4番手は長崎市内の不動産会社であるABCの吉田睦氏。2017年4月、5人のライトコースからスタートした同社のkintone利用は2021年4月現在、全社員39人が使うスタンダードコースとなった。その過程には、まさに山あり、谷ありのkintone利用促進活動とさまざまな気づきがあった。
自ら作るなら、まずはシンプルに 吉田氏の始め方
長崎県長崎市出身の吉田睦氏は大学を卒業後、地元のシステム会社に就職して、おもにホームページの制作を担当。出産を機に退職して、現在は5時間半の時短勤務で不動産会社ABCの経営企画室 企画マーケティング課に所属している。
吉田氏の勤めるABC不動産は長崎市内に3店舗を抱える不動産会社で、リノベーションに強みを持つ。全社員39名が仲介業(賃貸・売買)や大家業代行、建物巡回、メンテナンス、建築・リフォームなど不動産会社として幅広い業務をカバーしている。
kintone導入のきっかけは、2017年3月にリフォーム営業統括から「吉田さん、営業支援ツールば導入したかとけど、相談にのってくれんかな」という相談が持ちかけられたこと。当時、営業統括は以前から各店舗にいる営業の動きがつかみにくいと悩んでいたため、ホームページ制作の知識があった吉田さんに相談したというわけだ。
吉田氏が入社する前、営業支援ツールの導入を失敗したことがあったが、その際は「自分たちにあわない」というのが大きな理由だった。そのため、自分たちで項目を追加したり、編集できるモノとして白羽の矢が立ったのがkintoneだ。
kintone利用のためにやったのは、まずデータを溜めることだった。もともと営業支援ツールを導入する予定だったこともあり、営業側は高機能なものを想定したらしいが、3月に相談を受け、5月に産休に入る予定だった吉田氏はまずはデータを溜めることを提案。1年間はkintoneの運用をお休みし、訪問履歴と物件情報を登録できるフォーマットのExcelを用意し、営業部でひたすら登録。翌年の産休明けに吉田氏がkintoneアプリにデータを取り込んで運用を開始したという。
吉田氏が作ったのは、オーナーの訪問履歴アプリ、物件情報アプリの2つ。物件情報アプリからは、関連レコードでオーナーの訪問履歴が見られる。「なんでもできる」と伝えていた以前はリクエストに応じて作ってしまい、結局使いにくいアプリができてしまった。でも、結果的にABCで根付いたのは、いずれもシンプルなアプリ。吉田氏は、はじめの一歩は構築も運用も続けやすい」という学びを得たという。
それぞれのタイミングでkintoneは使い始められた
スモールスタートから始まったABCでのkintone導入だったが、営業部はkintoneとは別の日報・掲示板システムにも登録が必要で、二重登録に対する不満が湧き上がってきた。また、利用範囲が拡がるにつれ、ライトコースでの運用も難しくなってきた。「1ヶ月に1回訪問できていないオーナー様のリストを出してほしい」「各物件の最終訪問日を物件情報一覧から見たい」といった具体的な要望が従業員から上がるようになってきたという。
そこで、同社はライトコースから全社員の利用を前提としたスタンダードコースに変更。まずは日報・掲示板システムをkintoneに移行し、新たに日報アプリを作成した。日報アプリに担当者と日付を入れれば、「オーナー様訪問記録アプリ」と「賃貸仲介接客アプリ」から該当のレコードを引っ張ってきてくれるという。また、物件情報アプリも営業マン前提ではなく、全社対象になったことで、物件担当や巡回担当の情報も入るようになったという。
吉田氏は、使ってくれなかったアプリを自ら使ってくれるようになったというストーリーを披露する。50代後半の巡回スタッフは新しいもの好きで、kintoneに興味を持ち、物件の登録を積極的に行なうようになった。今まで口頭で担当に伝えていた物件の不具合をアプリ経由で通知するようになったという。
一方で、40代後半の物件担当スタッフは、Excelの使い方も独自で、今のスタイルをあまり変えられたくないような印象だった。そのため、以前の日報・掲示板システムと同じような方法で登録してもらった。しかし、運用を始めて数ヶ月後に、この物件担当スタッフは巡回スタッフが入力した情報に気がつく。今まで巡回スタッフの日報をかき集めて、オーナー向けのレポートを作成していたが、物件情報アプリを開けば、あっという間に巡回スタッフの一覧を確認できるわけだ。結果、物件担当スタッフも巡回スタッフと同じように情報を登録するようになった。強要せずとも、自ら使うようになったのだ。
ここから吉田氏が学んだことは、「人によって腹落ちするタイミングが違う」ということ。「入力することに意義を感じてkintoneを使ってくれる人、入ったデータを活用することでkintoneの意義を感じてくれる人、それぞれが納得するタイミングでkintoneを使ってくれるようになったと思います」と吉田氏は語る。
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