業務を変えるkintoneユーザー事例 第215回
kintone hive初の広島開催!トップバッターの講演レポート
要件定義と情報共有が足りず闇落ち!からのDXリベンジに成功したさくら税理士法人
2024年04月15日 09時30分更新
kintoneユーザーによる事例・ノウハウ共有イベント「kintone hive hiroshima vol.1」が広島で初開催された。ブルーライブ広島に用意された250席は満席で、追加でも席を用意したとのこと。今回は、トップバッターのさくら税理士法人蒲原彰宏氏のプレゼンをレポートする。
とりあえずkintoneを導入したら所内が大混乱に陥った
今年もkintone hiveの季節がやってきた。今年は4月10日の広島を皮切りに、4月26日に札幌、5月21日に福岡、6月4日に大阪、6月25日に名古屋、そして7月9日に東京で開催される予定。各地域で優勝した企業はCybozu Daysの「kintoneAWARD」に進出する。皮切りは初開催となる広島で、登壇者への反応もよく、会場は大盛り上がりだった。多くが広島に住んでいる方で、そのほとんどがkintone hive自体への参加が初めてだったという。
1人目の登壇は徳島市にあるさくら税理士法人の蒲原彰宏氏で、テーマは「盛大にしくじった人からDXのリベンジ方法を学ぼう…の話」だった。
kintoneの普及などDX推進を担当する総務課システム担当である蒲原氏はある時、役員から顧客マスターをkintoneに移して、繁忙期の進捗を管理したい、という相談を受けた。この時点では、kintoneは名前を聞いたことがあるくらいだった。
既存の顧客マスターを精査したところ、顧客コードが重複していたり、存在しない顧客があったり、意味不明の項目があったりといろいろと問題が見つかった。アンケートの結果も入っており、その情報も必要だという。
どのようにkintoneに移行すればいいのかと悩んでいるうちに4か月が経過。とりあえずやってみよう、と適当にkintoneでアプリを作り、従業員に「ほら、kintoneだよ」と展開してしまった。当然、現場は大混乱。「どういう基準でいつ入力するの?」「どこが便利なの?」「どうやって使う?」「kintoneってなに?」といった声を浴びせられ、蒲原氏は大きなショックを受けてしまう。
「4か月も考え続けたのに、何でこんなことになるんだろう。『kintoneって専門知識ない人でも簡単に使えるんでしょ』『ヘルプは全部公開されているのだから、自分で調べれば使い方なんて誰だってわかるでしょ』と思っているうちに、僕はえげつない闇落ちをしてしまいます。ガチガチと音を立ててさまよい歩き、説明書を読まないkintoneユーザーを見つけると襲いかかる妖怪になり果ててしまいました」(蒲原氏)
大混乱になった原因を振り返ったところ、要件定義と情報共有が圧倒的に足りていないことに気が付いた。思考を放棄して適当にアプリを作ったことが原因だったのだ。
とはいえ、失ってしまった信用は簡単には元に戻らない。その後、蒲原氏は目の前の要望に一つずつ応えていくことにした。そうやってパズルのピースを1個ずつ積み上げていくように世界を少しずつ広げていったという。
過去の失敗はもう繰り返さない 要件定義と情報共有をしっかりと
そんな中、もっとも大きなピースだったのが、kintone Café徳島に参加したことだった。社外にkintoneについて相談できる人ができたことが、大きな励みになったそう。
そんな修行の日々を送っている時に、また役員から毎月の提出物の期限管理をkintone化したいと相談を受けることになる。「これは妖怪から人に戻るチャンスだ」と、蒲原氏はDXリベンジを誓って再び立ち上がった。
過去の失敗を繰り返さないために、要件定義と情報共有をしっかり行なうことにした。加えて、テスト期間を設けて、使う人の声を拾っていこうと考えたのだ。
また、情報共有の場として、タスクフォースを組織した。組織横断的にメンバーを集め、チャットワークのグループチャット機能を利用して情報を共有した。
次に、そもそも期限管理を本当に仕事として処理する必要があるかどうか、やる必要があるのなら、今の方法からkintoneベースに変える必要性が本当にあるのかどうか、などを今一度問いかけた。その過程で、課題を洗い出し、プロジェクトの目的を明確に設定した。
その上で、設定した課題を解決するために、どんなアプリが必要なのかを誰が見ても分かる形で日本語にした。同時に、今回のプロジェクトでやることとやらないことを明確に設定。やらないと決めたことは、どんなことがあっても絶対やらないという強いスタンスにしたという。
「ここまでの活動を次にドキュメントの形にまとめたのですが、共有する時も、あえてリアル会議を召集して、対面で口頭でドキュメントの内容を共有し、合意を取り付けました。リアル会議に召集すると、参加している皆さんが自分たちも参加してるという感覚を養うことができるのでお勧めです」(蒲原氏)
これらの工程を経て、アプリの政策に取り掛かった。プロトタイプを作成して、タスクフォースのメンバーに一次展開し、フィードバックを集めて修正し、アプリを完成させた。
2023年10月の1か月間をテスト期間と設定して、一部の人に使ってもらい、さらにフィードバックを拾い上げて修正し、2023年11月に本番運用を開始した。しかし、本番運用開始1週間後の利用率は22%と低かった。
「実は、本番運用を開始すると、チェックするのが面倒だという声があがっていました。提出物がある顧客リストの内容を担当者に確認してもらい、確認欄にチェックを入れてもらうフローにしていましたが、kintoneでチェックを入れようとすると1つのレコードあたり3回のクリックが必要になります。顧客の内容の確認は多い人で40件、120回クリックをしなければならず、これは確かに面倒だということで、一括編集する機能を作りました」(蒲原氏)
リストのレコードをまとめて編集可能にし、編集後に一括保存できる機能を作ったのだ。そのおかげで、40件のチェックをする作業で120クリックしていたところ、42回で済むようになり、65%の工数削減が実現した。「これがドンピシャで当たりました」と蒲原氏。
22%だった利用率が、1週間で92%まで爆上げしたのだ。その後も、高いレベルを維持し続けており、大成功となった。
毎月の提出物の期限管理をkintone上で行なえるようになったので、確定申告の仕事の期限もkintoneアプリで管理するようにした。2月~3月の確定申告は、会計事務所でもっとも忙しい仕事だ。kintoneで進捗を管理することで、事務所全体の進捗がリアルタイムでグラフ化できるようになった。
「僕も驚いたのですが、ここまで数字で明らかになると社内のコミュニケーションが少しずつ変わってきました。みなさんそれぞれの立場でリアルタイムに変わっていく数字を見て、楽しんでいるのです。管理職の事業部長がメンバーに『今いいペースで進んでるよね』などと声かけをしていました。大混乱だった状況からは考えられないセリフで、非常にうれしかったです」(蒲原氏)
kintoneがなかったら、今も妖怪のままで、ここまで盛り返せていなかったと蒲原氏。kintoneであれば、小さく始めて大きく伸ばせる。アプリを作りながら、自分たちもkintoneと一緒に成長していけるという。
「一番大きいのが、何度でも試行錯誤ができるということです。失敗の反省を次のトライに生かすことで、『予算もないし人もいない。うちにはDXは無理』という状況を、『もしかしたら自分たちにもDXできるかも』に変えてくれる力がkintoneにはあると思います」と蒲原氏は語った。
意欲は2番目 1番大事なのは?
プレゼン後にはサイボウズ株式会社中国営業グループ広島オフィス 西尾陽平氏から質問が飛んだ。
西尾氏:途中、大混乱があって要件定義との情報共有が大事だと気付かれたというお話がありました。そこからアプリを作った後、それをどう皆さんにお伝えしましたか? どういう距離感で伝えるのか難しいと思うのですが。
蒲原氏:タスクフォースを作る際、所内の各課から一人ずつ集めてバランスを取りました。まず、僕から使い方に関して彼らに説明し、そして、彼らが持ち帰ってそれぞれの課でまたレクチャーをするという二段構造を作りました。タスクフォースのメンバーも作り手だという意識を持っていただくような仕掛けにしました。
西尾氏:蒲原さんが意欲あるメンバーを選抜されたのですか?
蒲原氏:意欲は2番目です。1番大事なのは、満遍なく皆さんに参加してくださいという立て付けです。新しいものに対して拒否反応を示した方でも、役割を一旦与えさせていただいて、そこで一緒にワイワイやりながらやっていると、徐々にやる気になってきてくださる方もいて、うまく運ぶことができます。
西尾氏:選抜した後のフォローも蒲原さんがまめにされてたりするのでしょうか?
蒲原氏:そうですね。いただいたご要望に関しては、基本的にすぐお答えできるものはすぐ答え、時間がかかりそうなら時間ください、という配慮はしました。社内の要望が全部自分に集まって溺れた経験があるので、(タスクフォース)のメンバーをそういう状況に追い込まないようにする工夫です。責任は俺が持つから、もう好きなように振る舞って大丈夫ですよ、という環境を意識して作りました。
2025年3月末までの限定公開です
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