2月29日に、文化庁で「文化審議会著作権分科会」の第7回が開催されました。著作権の専門家によってその制度について議論をする場ですが、今年度は2023年7月より「AIと著作権」について議論されてきました。3月に文化庁から政府に報告する「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の最終案に近いものが発表され、1月下旬から2月上旬にかけて募った「パブリックコメント(パブコメ)」の結果報告もされるということもあり、注目されました。登場したのは「AIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年2月29日時点版」、パブコメの結果を受けて、これまでの内容に微修正が施されていました。しかし、そこからわかったのは、文化庁の一貫したスタンスでした。
パブコメへの反応は「素案の内容周知」
発表物から議論を集めたのが発表資料に「パブコメの結果」が追加されていることです。今回のパブコメは、法的な義務のあるものではなく、行政が独自に実施する任意のパブコメなので、極論を言うと文化庁は細かな回答しなくてもかまわない性質のものです。しかし、社会的な関心は高く、最終的に約2万5000件、うち73法人からのパブコメが集まるという結果に、文化庁がどのような反応をするのかに対応に注目が集まりました。
果たして、文化庁側も気合いが相当入っている結果公開でした。全体で393項目に分類された意見に対して回答を返しています。よくこれをパブコメの締切からの2週間でまとめ上げたな……という、文化庁の努力の一端が感じられました。
分類されたパブコメへの返答は、丁寧な文面でありながらも、法人、個人の区別なく拾えるところは拾う一方で、バッサリと切っている印象です。基本的に「素案」についてのパブコメであったために、著作権法の基本ルールを理解していること、過去の素案自体を読んで理解した上で意見することを前提としているようで、それに関係していない内容については丁寧な回答ですがほとんどが門前払いとも言える内容でした。ただし、回答を通じて素案の内容の周知をしているという面も感じられます。
例えば、AIが生み出すディープフェイク対策については「著作権法の範囲にとどまるものではない」(つまり、この素案の議論の対象ではない)と返答しています。
AIの登場によって著作権法は「こうあるべき」といった主張に対しては、「具体的な判断は、個別の事案に応じた司法判断による必要があると考えられます」と、裁判の新しい判例が出るといった形で、現在の前提が覆ったりすることがない限り、希望には添えないと暗に指摘しているようにも見えます。
また、AIが既存の技術に与える影響を考慮することを求めるコメントに、「現行の著作権法の解釈を精緻化した考え方をお示しするものであり、従来の法解釈を覆すものではありません」というのもありました。素案は、あくまで著作権法の枠組みのなかで、改めてどう位置づけるのかという性質のものであることを明確化もしています。
政府が著作権法の改正を検討していないこともありますが、文化庁はパブコメを受けても「素案の内容を大きく修正するつもりはない」という姿勢が明確でした。
ただし、パブコメの意見を通じて指摘された点をより詳しくわかりやすいものにしようと、パブコメを受けて文面に反映したという返答も多く、それに合わせて文面は細かく調整がされています。ここまで社会的な注目を集めるというのは予想を超えていたようで、その社会的な要請に応じています。

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