HPがHP-IBの標準化に動き出す
HPはこのHP-IBを標準化すべくIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)に働きかけを行ない、1972年3月にIECはTechnical Committee 66, Working Group 3を結成してこのHP-IBを元にした標準化作業を開始する。
1974年9月には標準規格のドラフトが策定され、1975年4月にIEEE-488/1975として正式に国際標準化される。この後もいろいろ改定が続くのだが、そのあたりの話はまた後でするとして、この1970年代中旬になってくると、HP以外のメーカーもHP-IBを利用するようになってきた。
そもそも1965年にHP-IBの仕様が策定された際に、HPは非常に安価なライセンス料でHP-IBの仕様を提供したため、多くのメーカーがこれを利用するようになった。ただ"HP-IB"はHPの名前がモロに入っているので、これは都合が悪いと感じたのか、業界ではHP-IB互換I/FをGPIBと呼ぶようになった。したがって、HPは引き続きHP-IBの名称を使い続けたが、それ以外のメーカーはGPIBと称するのが一般的になっている。
さてそのGPIBだが、HPでは計測器だけでなくプリンターやプロッターなど幅広い接続に利用した。HPだけでなく、例えばCommodoreはPET 2001にGPIB I/Fを搭載しており、これでフロッピードライブを接続していたほか、他社の各種機器(プリンター、プロッター、モデム、テープドライブ、etc...)を接続することもできた。
Eugene J. Fisher&C.W.Jenson著の"PET and the IEEE 488 Bus (GPIB)"から抜粋
"PET and the IEEE 488 Bus (GPIB)"にはHPのデジタル電圧計や周波数カウンター、CentronicsのModel P1マイクロプリンター、Tektronixのロジックアナライザー、ICSのインターフェースカプラーなどさまざまな機器を接続する場合の配線とプログラム例が示されている。"プログラム例"というのが味噌で、当時のことだから、自分でBASICを使ってプログラムを書いて使う形になっていたわけだ。
これは別に珍しくなく、日本でもPC-8001のN-BASICには標準でGPIB用の命令が用意されており、PC-8800/9800シリーズ用のN88-BASICにも引き継がれている(ただしI/Fそのものは標準では搭載されていなかったので、別売のI/Fカードが必要だったが)。
ただプリンターはセントロニクス、FDDやHDDなどはSASI、モデムなどはRS-232-Cを使うようになっていったことで、GPIBは計測器以外の市場ではあまり広く使われなかったものの、逆に計測器市場ではその後も延々と使われ続けることになった。
変なところで言えば、現在は神戸大学大学院におられる牧野淳一郎教授が、まだ東京大学に在籍中の1989年に完成させたGRAPE-1は、「とりあえずホストにつなぐ」ことを目的にGPIBを使って接続したものの、性能が出なくて悪戦苦闘したという話が論文の70ページあたりに載っている。
GPIBは純粋にハードウェアというか通信規格であり、そのうえでどんなデータを流すかは勝手にできた。上で「BASICのプログラム例が載ってた」というのは、要するに接続する機器ごとに、どんなデータがどんなタイミングで流れて来るかまちまちであり、接続するものに合わせてプログラムを書いてやる必要があったという意味でもある。だからこそ、自分で作ったハードウェアをつなぐのに手っ取り早いI/FとしてGPIBが選ばれたわけだ。
この「なにを流すかは機器ごとに勝手に決められる」というのは、ある意味GPIBの長所でもあるのかもしれないが、広範に使おうとするといろいろ面倒になってくることも多い。そこで、「もう少し上位レベルの規定をしよう」という機運が高まった。
ここで先程の標準化の話に戻る。1975年にIEEE-488/1975が出て最初の標準化が完了したわけだが、これはANSI(American National Standards Institute:米国国家規格協会)でもそのままANSI MC1.1として1976年1月に標準化されている。
さて、これに続きIEEEは1978年11月にIEEE-488/1978を発表するが、これは不明確な記述の明確化や、若干の補足がある程度で大きな違いはない。またこのIEEE-488/1978をベースにIECでもIEC 625-1をリリースしている。ここまでは基本HP-IBと大差ない。変わるのはここからだ。
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