フジヤエービック主催の合同試聴イベント「ハイエンドヘッドホン・リスニングセッション 2024」が3月2日に開催された。場所は中野セントラルパークカンファレンスの地下ホールだ。
これまでにない趣向で運営
初開催のイベントであり、これまでとは違った運営方法だった。12:00~18:00の開催時間を1時間ごと合計6回に分割、完全予約制で1時間ごとに参加者を入れ替えるというものだ。参加者がゆっくりと試聴できるようにしたという。これまでの試聴イベントに比べると、かなりゆったりとした雰囲気で試聴でき、特定のブースに列ができることもなかった。
会場には合計9つのブースが設けられた。内訳はブライトーン、finalとコペックジャパンの共同ブース、エミライ、完実電気、HIFIMAN、Focal(LUXMAN)、タイムロード、Brise Audio、DVASとスタジオイクイプメントの共同ブースだ。各ブースには説明員が付き、ここで試聴するのが基本だ。
また、会場の中央にヘッドホンの展示テーブルが設けられ、ここにfinalの「D8000 Pro」やDan Clark Audio「Expanse」など多数のハイエンドヘッドホンが並べられていた。これらは自分のヘッドホンを持参しなかった参加者が自由に使用できることに加え、発売されたばかりのfinal「D7000」やユニークなLB-Acoustics「MYSPHERE 3」などを各ブースの展示機材と自由に組み合わせて使えるという趣向だった。
私はゼンハイザーの「HD 800」を持参したが、これらの展示品を使用することで、より多彩で興味深い試聴ができた。
完実電気ブースの様子
どのように試聴したかの例を挙げよう。
最大規模のブースを構えていた完実電気ブースの目玉は、本イベントのキービジュアルにも用いられている日本初上陸の製品、Warwick Acoustics「APERIO Electrostatic Headphone System」だ。これは静電型ヘッドホンと静電型アンプのシステム製品で、ネットワークプレーヤーのLUMIN「X1」をソース機に用いてLUMINアプリで操作した。システム総額600万円という文字通りのハイエンドオーディオだ。
まずは着席して、この組み合わせで聞いてみる。ジャズトリオの音源を聞くと、楽器の音像は静電型らしくシャープで整った音だが、思いのほかパンチがありリスニング目的でも通用するだろう。クラシックではソースのダイナミックレンジの大きさがよくわかり、迫力もひときわ高い。
次にdCSのLINAシステム(Master Clock、Headphone Amplifier、Network DAC)を聴いてみた。ソースはDELA「N1」を使用してLINNのKAZOOアプリで操作する。持参したHD 800を使用して聴いた。確かに音は素晴らしく、自分のHD 800では今まで聴いたことのないような高精細なサウンドが楽しめた。伸びやかで美しく、dCSらしく繊細で整った音世界だ。クロックやDAC部分が優れているのはもちろんだが、dCSには珍しいヘッドホンアンプの音も優れていて相当な力感を感じる。
ここで、会場中央のヘッドホンコーナーからfinal「D7000」を借りてdCSのLINAシステムを試聴し直してみた。長年愛用のHD 800よりも迫力があり、音像も鮮明に感じられる。ピナアライン・ディフィーザーで音像が滑らかなD7000の思想がdCSのLINAシステムだと良く伝わる。このように、ヘッドホン側の比較試聴も同時にできるのが本イベントの特徴だ。
続いて真空管ヘッドホンアンプであるLinear Tube Audio「Z10e」を試聴した。これは静電型とダイナミック両用の珍しいヘッドホンアンプだ。「Z10e」はアナログアンプなのでDACはMSB Technologyの「Discrete DAC」を使用した。これは文字通りR2R形式ディスクリート設計のDACである。
Z10eの音は真空管らしく滑らかで暖かいが高精細で迫力もある。ハイエンドの真空管アンプらしいと感じた。Discrete DACだけの音質にも興味があったので、説明員に依頼してヘッドホンアンプを同じMSB Technologyの「Premier Headphone Amplifier」に変更した。こうした贅沢な試聴ができるのも今回のイベントの特徴だ。
この組み合わせを自分のHD 800で聴いてみると、より整ったサウンドになるが、音のエッジが滑らかで、先ほどの滑らかな音の印象の幾分かはMSBのR2R形式DACの恩恵でもあったことがわかる。
このように多彩な楽しみ方ができるイベントだ。
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