前回はArmのRISC-Vに対するスタンスを説明した。これは全体を通してみた話であって、これだけ見れば比較的スマートに反撃というか、RISC-Vの手が出ない領域を積極的に開拓していくことで、直接対決する愚を犯さない対応に終始しているように見えるかもしれないが、実際はいろいろやらかしている。
RISC-VはArmに劣るとArmが主張
すでにページは削除され、キャッシュやキャプチャーなども削除されてしまったの存在しないが、2018年7月9日にArmは riscv-basics.com なるサイトを立ち上げ、ここでRISC-Vがコスト、エコシステム、分断化(fragmentation)、セキュリティ、デザインの信頼性(design assurance)の5つのポイントにおいてArmに劣る、という主張をした。The Registerが報じた2018年7月10日の記事がこのあたりを伝えているので、ここからArmの主張を簡単に紹介すると、以下の主張がなされていたらしい。
(1) RISC-Vはライセンス料こそ無料だが、SoCを構築するには他にもたくさんコストが掛かるので、無料なわけではない。
(2) SoCを構築する際に助けとなるエコシステムはArmの方がはるかに巨大である。
(3) RISC-Vではさまざまなベンダーが独自にインプリメントを行なう形になるので、実装が細かく分断(fragment)する。Armの場合はArm一社がIPを提供するので、実装に差がない。
(4) Armはセキュリティ対策を施したコアとそれを利用するためのソフトウェアを提供している。RISC-Vはベンダーが多いから、すべてのベンダーでこれが実現しているとは限らない。
(5) ArmはIPのみならずPOP IPやソリューションなどを提供しており、さらにEDA Toolとの連携もあって、確実に稼働するチップを設計できる準備が整っている。RISC-VはCPU IPのみであり、チップ全体の設計まで担保しているわけではない。
一読するとわかるが明らかにイチャモンというか「お前が言うか」的な内容であり(特に(1))、それもあって猛烈な批判にあうことになり、翌7月10日には閉鎖されてしまっている。またRISC-V陣営もすぐさま対抗して、反論のサイト (http://arm-basics.com/)を立ち上げており、こちらは当初と少しデザインが違うが内容は同じまま現在もアクセス可能である。
RISC-Vは無料ではないが
Armより廉価で作れる
ここでArmの主張のうち、(1)はもはや言いがかりである。Armは、ロイヤリティとライセンス料「だけ」を払えばSoCが作れるわけではない。SoC構築費用はArmだろうがRISC-Vだろうが大きくは変わらない。もちろんRISC-VでもCPU IPベンダーから購入すれば相応にライセンス料なりロイヤリティは掛かるだろうが、Armから買うよりは一般に廉価とされる。ただし、実際のところは個別交渉になることが多いので、一概にどうこうは言えない。
エコシステムはArmの方がはるかに巨大
これはそのとおり
(2)は事実であった。2018年当時で言えばRISC-V財団による活動が始まったばかりと言っても良い時期で、まだメンバー企業も100社台だったころである。Armのエコシステムにはおよばないのは明白だし嘘ではない。とはいえ、すでにRISC-V Internationalへの加盟が2000社を超えていることを考えれば、これは時間の問題でもある。
実際ISVの中には、ArmのエコシステムとRISC-Vのエコシステムの両方に籍を置き、両方にソリューションを提供し始めているところもある。要するに時間の問題であって、長期的にはあまり差がなくなるだろう。
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