米中貿易摩擦の影響でArmのIPが使えないため
高性能なサーバー向けプロセッサーを前倒しで開発中
かくして、米中貿易摩擦の影響で当初の穏当なスケジュールは破棄され、各社けっこう前倒しで開発が進められていると聞いている。
これらは外部に販売する目的のものではないし、米中の関係がこれだけ悪化している現状では各社とも自社の技術力アピールの目的で開発中のRISC-Vコアの情報を出す理由がないため、詳しい話は不明である。ただ以下の情報が耳に入ってきている。
- AlibabaはE(Embedded)/C(Compute)/R(Realtime)の3種類のRISC-Vコア群を開発中であり、CシリーズだけでもC906/908/910/920の4つが存在する。ハイエンドのC920は3命令デコード/8命令発行のアウト・オブ・オーダー構造(パイプラインは整数12段)、RVE(RISC-V Vector Extension)もサポートするという、そこそこの性能の製品を目指している。
- Baiduは2023年3月、StarFiveに戦略的な投資を行なったと複数の情報が伝えた(Baiduの例)。
- Tensentでは、子会社のT-Headが現在RISC-Vコアを開発している。
StarFiveというのは、元はSiFive Chinaという名称で2018年に設立されたSiFive子会社である。このSiFive Chinaがおもしろいのは単にSiFive子会社としてSiFiveのIPを販売するだけでなく、SiFive China独自のIPを開発してこれを販売するというミッションを持っており、実際に現在同社はDubhe-80/90という64bit RISC-V IPとStarLink-500というインターコネクトIPを提供しているが、これはSiFive Chinaで開発されたものだ。
2000年に社名がStarFiveに切り替わっており、このタイミングでStarFiveはSiFiveから独立した。2021年2月に台湾DigiTimesがJames Prior氏(Head of global communications:ちなみに前職はAMDでThreadripperのマーケティングなどをしていた)に行なったインタビューの中ではっきりと「StarFiveはSiFiveから完全に独立した企業だ。独自のCEOの元で投資を受け、セールスやマーケティング、エンジニアリングチームを持つ。SiFiveとの間にはライセンス契約があり、中国企業に向けて(SiFiveのIP)をルールに則って販売する」と説明しており、その意味ではもうSiFiveとは直接関係がない。
そんなStarFiveにBaiduが戦略的な投資(金額は不明だが、ロイターのレポートによれば総額で10億ドルの投資を受けたとしている)をしたというのは、要するにStarFiveのRISC-Vコアを使うことを前提に、より高性能なコアを開発しているということだ。
一方、Tensentは対応作業に余念がない。もちろん、ほかにもRISC-Vを手掛ける企業は多い。例えば2023年7月には、Beijing ESWIN Computing Technology(北京奕斯偉計算技術)が合計30億元(当時の換算レートで590億円ほど)の投資を受けたが、同社もRISC-Vプロセッサーをベースとしたさまざまな製品を現在開発中である。
Beijing ESWIN Computing TechnologyはBeijing ESWIN Technology Group Co. Ltd(北京奕斯偉科技集団)というIC製造のメーカーであり、ここの子会社として2019年にRISC-Vプロセッサーの開発を目的としたのがBeijing ESWIN Computing Technologyである。
あるいはGigaDevice Semiconductor Inc.はもともとはNORフラッシュ製造の会社だったが、2013年にCortex-M3コアをベースにしたGD32というMCUをリリース、現在ではかなりの数の製品を出荷している。そのGigaDeviceは2019年にGD32VというRISC-VコアをベースとしたMCUをリリース、現在も多少品種を増やしながら販売中である。
もともと「ライセンスやロイヤリティが不要」といった理由でRISC-Vへの傾倒が起きていた中国であるが、外的要因(米中貿易摩擦)をきっかけに、日本はおろか欧米を上回るペースでRISC-Vへ雪崩をうってのシフトが起きている、というのが現在の状況である。

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