自動車開発が複雑多岐になったため
小野測器のデータが必要に
そんな小野精機が、どうして自動車の計測データ販売を始めることにしたのでしょうか? それは自動車開発が複雑・多岐にわたり1社対応の限界に近付きつつあるから、なのだそう。それはメーカー間での協業や提携のニュースからも想像に難しくない話です。
自動車メーカーはライバルメーカーの車両を購入し、様々な角度から分析し、自社製品開発に役立てています。ですが、一部分の計測のために車両購入をしたり、計測のためにエンジニアが何日も本来の設計作業ができない、高額な計測機器を占有するなど、金額と時間の面で弊害がありました。それゆえ小野測器が計測代行サービスを行なっているのですが、相応の金額がかかります。
そこで始まったのが、計測データを販売する「ベンチマーキングレポート」というわけです。小野測器が注目車種を選定、入手して動的性能を高精度に測定。レポートを提供すれば国内自動車産業に貢献できる、というわけです。また、自ら計測することによって、今後の計測機器設計にも役立つというメリットもあるのだとか。
気になる測定項目は出力、パワーユニット効率からはじまって、車内の騒音、走行抵抗、そして車内の冷暖房などの熱マネジメントに至る14項目。気になる価格は1項目あたり50万円で、詳細な計測レポートのほか、測定データも付属します。実はドキュメントより、このデータに価値があり、シミュレーションなどに役立つそうです。
BYDは日本仕様ではなく本国仕様で計測する
現在はBYDの「ATTO3」と「SEAL」の2車種のデータをリリース。あくまでも輸入車を測定し、国産車の計測データ販売は行なわない方針だそうです。ここで注目は、計測したBYDのクルマはいずれも日本仕様ではなく、本国仕様のクルマである点。これはクルマがワールドワイドのマーケットであるため、それに合わせたデータが必要になるからです。
ちなみに、BYDを選んだのは「メーカーエンジニアとしては気になるけれど、クルマを買ってまで測定するには……」という視点でチョイスしたのだとか。ほかにもテスラなどが候補に挙がったようですが「いまさら測っても……」と、発売年から除外したのだとか。
おそろしいのは、その測定の内容。筆者が見ても何が何やら分からないのですが、本当に部品単位といってよいほど、細かな部分の特性を計測しているのです。その一例として、エアコン動作時における電力配分などを見たのですが、冬季に言われるほど電力は使われていないことがわかります。もちろん寒さによるバッテリーの効率などは変わるとは思いますが、クルマのエネルギーマネージメントを知るうえで重要なデータとなります。
当然、クルマを計測するため、その施設はかなり巨大。今回はそのうちのひとつ、音響測定用の無響室を見学しました。さすがにクルマ1台を入れることはできないのですが、それでも日本有数の広さを誇ります。ちなみに、1日18万円でお借りすることもできるそうです。ほかにも自動車や、電機用品材などの音響透過損失測定をする残響室なども用意されています。
自動車産業は100年に1度の大改革の真っただ中。その中で、日本の自動車業界は挙党体制で世界に立ち向かおうとしています。小野測器の取り組みは、まさに日本自動車業界の屋台骨を支える重要な取り組みといえるでしょう。
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