今週のRISC-Vプロセッサー遍歴は、話を2020年頃に戻す。連載744回で触れた「RISC-Vに前のめりだった第1グループ」であるファブレスCPU IPベンダーはどんどん製品投入を開始している。わかりやすい例はSiFiveであろう。
CPU IPの提供だけでなくSoC全体の設計まで手がけるSiFive
SiFiveの2017年10月における製品ラインナップが下の画像である。
E31は32bitのMCU向けで、競合製品はCortex-M3やM4とされ、シングルイシューのパイプライン構成ながら1.5 DMIPS/MHz(Cortex-M3/M4は1.25 DMIPS/MHz)の性能であり、28nmプロセスなら最大1.5GHzで動作するとされている。
もちろんこんなスピードで動かしたら普通はフラッシュメモリーが全然間に合わないので、実際にはもっと遅い周波数で動かすわけだが、逆に言えば28nmで1.5GHzということは90nmあたりでも数百MHzで十分回るわけで、これは高性能なMCUコアとして使うには十分である。
E51はE31を64bit対応にしただけという感じで、MMUもないので(PMP:Physical Memory Protectionユニットはあるが、これは俗にいうMPUである)、Linuxなども動かない。これはASIC内部のコントローラー向けといった扱いである。
この上位に来るのがU54-MCであるが、こちらはCortex-A53にもおよばない程度の性能でしかなく、アプリケーションプロセッサーとして使うには厳しい。ただソフトウェア開発用のプラットフォームとしては十分であり、とりあえずCPU IPベンダーとしての体裁が整ったという程度である。
これが2018年になると、ローエンドにE2シリーズが追加される。
ちなみにこの時期、SiFiveは単にCPU IPのみならず、SoC全体を構築できるようなソリューションを提供している。というのは、SiFiveは2017年8月にOpen-Siliconという独立系のデザインハウス(ASICの設計を専門にした企業。顧客が論理設計を行なったチップの物理設計を担当したり、論理設計から物理設計まで担当して、テープアウトまで面倒を見たりする)を買収したことで、CPU IPの提供だけでなくSoC全体の設計まで手がけられるようになったからだ。
この時期SiFiveは“Processor Factory”、“Subsystem Factory”、“Chip Factory”という形で、単にCPU IPだけでなくCPUを含んだサブシステムの提供、あるいは最終的にASICそのものの製造まで意図していた。
結果から言えばこの試みは時期尚早であり、2020年にこのOpen-Siliconの舞台はOpenFiveとしてSiFiveの子会社の形で独立して動くことになり、2022年9月に英Alphawave IPに売却されることになった。
この手のサービスの場合、Armはデザインパートナーと呼ばれる認定を受けたデザインハウスが担っているが、SiFiveにはこうしたパートナーとなるデザインハウスが存在しない。したがって自前で抱え込もう、というのがそもそも上の画像の目論見だったように思う。
ただそのためには、顧客が使いたいと思うような魅力あるCPU IPが大前提であり、残念ながら当時のSiFiveのコアはそこまで魅力的と言えるほどではなかった。
結局のところOpen-Silicon部門は単独でもビジネスが成立する状態だったのに、SiFiveと組み合わせたことでビジネスが先細りになってしまったので、分離して運営(つまりArmなどをベースにしたASICの設計も担えるようにする)する形となり、こうなるとSiFiveが子会社として保持する意味がないので売却してしまった、というあたりだろう。
話を戻すと、E3コアは性能がそれなりにあり、性能/面積比や性能/消費電力比も良好と言っても、世の中にはそこまでの性能が要らないからもっと小さい回路規模で、というニーズが一定量存在する。Armで言えば、Cortex-M0やCortex-M0+、Cortex-M23あたりに該当するコアである。
2段のパイプライン構成ながら1.77 DMIPS/MHzと動作周波数あたりの性能はE30シリーズよりも若干上である。もっともその分動作周波数はあまり上げられないという制約は付くのだが。
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