青い日記帳の推し丸アート 第15回

伊藤若冲の最高傑作「動植綵絵」が相国寺を救った! 「動植綵絵」にまつわるわらしべ長者物語!

文●中村剛士

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 皇居東御苑内にある三の丸尚蔵館は、代々皇室に受け継がれてきた御物を所蔵・公開するために、今から30年前に建てられました。今年11月に開館30年を迎えたのを機に、三の丸尚蔵館は、展示空間を建て直し装いも新たに「皇居三の丸尚蔵館」として開館しました。

 リニューアルオープンに際し、管理・運営が、それまでの宮内庁から独立行政法人国立文化財機構へ移管。11月3日から「皇居三の丸尚蔵館」の名称となりました。

皇居三の丸尚蔵館 外観

皇居三の丸尚蔵館 内観

 新生三の丸尚蔵館誕生を記念して、「皇室のみやび」をテーマに、皇居三の丸尚蔵館を代表する多種多様な収蔵品を4期に分けて展示する「皇室のみやび-受け継ぐ美-」が令和5年11月3日(金・祝)から令和6年6月23日(日)まで開催されています。
https://pr-shozokan.nich.go.jp/miyabi/

 12月24日(日)まで開催している第1期では、「三の丸尚蔵館の国宝」と題して、《蒙古襲来絵詞》や《屏風土代》など、近年指定された館収蔵の国宝8件のなかから4件の作品を公開しています。

 その中で最も熱い視線が注がれているのが、伊藤若冲「動植綵絵」です。国宝に指定された「動植綵絵」全30幅のうち12幅を第1期と第4期に分けて公開します。

 若冲渾身の作である「動植綵絵」については、ここであらためて説明する必要はないでしょう。若冲彩色画の最高傑作であることに誰一人として疑いを持つことはありません。

 今回の「青い日記帳の推し丸アート」では「動植綵絵」にまつわるちょっと面白いお話をしたいと思います。題して「伊藤若冲『動植綵絵』わらしべ長者物語」です。

 1765年に若冲が10年以上の歳月と、持てる技術と最高の材料を用いて描き上げた「動植綵絵」を、相国寺に寄進したことが資料として残されています。(ただしこの時点では三十幅全て完成しておらず「釈迦三尊像」三幅と「動植綵絵』二十四幅を寄進しました。)若冲50歳の時です。寄進ですので、金品を対価として相国寺からもらうこともなく、あくまでも伊藤家の永年供養として寄付したのです。

 相国寺に充てた「寄進状」に若冲はこのようなことを記しています。「私はつね日ごろ絵画に心力を尽くし、常にすぐれた花木を描き、鳥や虫の形状を描きつくそうと望んでいます。(中略)世間の評判を得ようといった軽薄な志でしたことではありません。すべて相国寺に喜捨し、寺の荘厳具の助けとなって永久に伝わればと存じます。私自身もなきがらをこの地に埋めたいと願い、謹んでいささかの費用を投じ、香火の縁を結びたいと思います。ともお納め下さいますよう伏して望みます。」(『日本の美術 伊藤若冲』佐藤康宏著)

 若冲のこの作品に込めた思いが伝わってくる名文であり、これを知って観るのと知らないで観るのとでは受ける印象もだいぶ違ってくるはずです。

 さて、「動植綵絵」を寄進された相国寺は、返礼として松風というお菓子を「二斤」若冲に贈っています。京都に詳しい方ですと松風といえばあのお菓子をすぐに思い浮かべるはずです。「亀屋陸奥」という長い歴史をもつ和菓子屋さんの看板菓子が松風です。

 現在も24枚入りが1650円で販売されています。つまり考えようによっては、相国寺はおよそ数千円足らずで「動植綵絵」三十幅を手に入れたことになります。以下から、わらしべ長者的なお話しとして楽しんで下さい。

 寄進されたのですから、もちろん金額の多寡は関係ないのですが、「動植綵絵」が後に相国寺を救うことになると考えると、随分と安く手に入れたものだと思わざるを得ません。それと言うのも、江戸時代が終わり明治時代という新しい時代に吹き荒れた「廃仏毀釈」の荒波にさらされた相国寺は、寺の存続が危ぶまれた際に、宮内省に「動植綵絵」を献上したのです。その見返りとして、1万円の下付金が与えられました。明治22(1889)年のこと、若冲から寄進を受けた約120年後の出来事です。

 ちなみに当時の1万円が現在のいくらに相当するかですが、はっきりとした計算式はないので正確には分かりませんが、億単位であることは間違いありません。宮内省からの1万円により相国寺は今ある土地を手放さずに済んだのですし、金閣寺、銀閣寺を擁する臨済宗相国寺派の大本山としての地位を保っているのです。「動植綵絵」を若冲が寄進していなかったら今の相国寺は無かったかもしれません。

 そんな昔話を頭の片隅に入れて、皇居三の丸尚蔵館で国宝となった「動植綵絵」と対面しましょう。尚、「動植綵絵」や若冲については、拙著『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩新書)にこの「わらしべ長者物語」を含め他にも面白いエピソードを書いています。併せて読んで頂けると嬉しいです。

皇居三の丸尚蔵館 開館記念展 「皇室のみやび―受け継ぐ美―」
会場:皇居三の丸尚蔵館
住所:東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内
会期:2023年11月3日(金) ~ 2024年6月23日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
https://shozokan.nich.go.jp/

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