青い日記帳の推し丸アート 第34回

信長、秀吉、家康が愛した幻の茶道具が11月4日まで公開! 担当学芸員の見どころコメントで予習して、静嘉堂@丸の内へ

文●中村剛士

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」、大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」

大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」、大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」 南宋~元時代(13~14世紀) 静嘉堂蔵

 静嘉堂文庫美術館が世田谷から丸の内に移転して初めてとなる茶道具の名品を紹介する特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」が、9月10日から11月4日まで開催されています。

 この展覧会を企画担当された静嘉堂文庫美術館主任学芸員の長谷川祥子さんによる見どころコメントを丸の内LOVEWalkerの読者の皆さまに向け頂戴しました。知識はいくらあっても鑑賞の邪魔にはなりません。しっかりと読んで「眼福展」へいざ!!

 今回の特別展は、静嘉堂が誇る茶道具の至宝・国宝「曜変天目」をはじめ、中国製の唐物(天目)茶碗、朝鮮半島製の高麗茶碗、樂茶碗や和物(国焼)茶碗の優品が一堂に会する8年ぶりの大茶道具展です。

重要文化財「油滴天目」、(付属)「堆朱花卉文台」

重要文化財「油滴天目」、(付属)「堆朱花卉文台」 南宋時代(12~13世紀)、天目台:明時代(15世紀初期) 静嘉堂蔵

長谷川祥子さん(静嘉堂文庫美術館 主任学芸員)見どころコメント
「静嘉堂の茶道具コレクションは約1,400点あり、幅広く質も高いものです。茶碗は前後期の展示替を含め、13点の出品です。」


 茶道具の見どころは茶碗だけではありません。花入、香合、水指、茶杓、棗(なつめ)など、千利休をはじめ古の茶人たちが愛し大切に受け継いできた優品たちも見逃せない存在です。

 なかでも茶入(ちゃいれ)は必見です。中には小さいながらたった一つで一国に値するほどの価値あるものとされた茶入もあります。そんな憧れの茶入の中でも織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と戦国大名に愛されてきた大名物(おおめいぶつ)の茶入が静嘉堂にあるのです。

大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」、大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」

大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」、大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」 南宋~元時代(13~14世紀) 静嘉堂蔵

長谷川祥子さん(静嘉堂文庫美術館 主任学芸員)見どころコメント
「“大名物”とは、千利休時代以前から評価されていた大事な道具のこと。戦国大名に愛されてきた大名物はまさに見どころ! その大名物とは唐物茶入の「付藻茄子」と「松本茄子」です。この2つの茶入には、家康の手に入るまえ、さらなるドラマもありますから、ぜひ、本物を確かめにいらしてください。」


 静嘉堂所蔵の茶道具は、三菱第2代社長・岩崎彌之助(1851~1908)とその嗣子で第 4 代社長の岩崎小彌太(1879~1945)の父子二代によって、明治17 年(1884)頃から昭和 20 年までに蒐集(しゅうしゅう)されたものです。

大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」

大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」 南宋~元時代(13~14世紀) 静嘉堂蔵

 明治17年(1884)に岩﨑彌之助が茶道具の中で最初に購入した作品が、長谷川さんのコメントにもあった、利休時代から天下に知られた“大名物”の唐物茄子茶入、付藻(つくも)茄子(「九十九髪」「作物」)と、松本茄子(別称:紹鷗茄子)の 2 点とされています。この二つの茶入こそ、ともに信長‐秀吉‐家康と、戦国時代の三英傑が手にした伝来をもつ著名な茶入なのです。

 松本茄子は、戦国時代の堺の豪商で茶人でもあった武野紹鷗(1502-55)が所持していた“三つの名物唐物茄子茶入”のうちの一つでした。明治 17 年(1884)、これらの茶入を入手できる話が持ち込まれたとき、当時若かった彌之助にはとても高価であったため、会社から年末の給与を前借りして購入したという逸話も残っています。

長谷川祥子さん(静嘉堂文庫美術館 主任学芸員)見どころコメント
「彌之助さんは、三菱となる前の社名≪九十九(つくも)商会≫のと同じ名を冠した、大名物の茶入を、千載一遇のチャンスで何としても購入したかったのでしょう。しかし、16才年上の兄・彌太郎さんに、それは会社の金を借りての購入したのだから、と茶入は担保にとられ本家(兄に)預かられてしまったそうです! でも、内心、彌太郎さんは嬉しかったと想像するんですが……。」


 特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」では、この 2つの茄子茶入の他にも、静嘉堂所蔵の“大名物”茶入 7 点、すべてが展示されています。

 さらには、江戸時代後期、松江藩主で大茶人であった松平不昧が小堀遠州時代の茶入として評価し、“中興名物”と分類した茶入(日本製の茶入)5 点も全てを展示。

重要美術品 大名物「唐物茄子茶入 利休物相」次第とともに

重要美術品 大名物「唐物茄子茶入 利休物相」次第とともに 利休物相:南宋~元時代(13~14世紀)静嘉堂蔵

中興名物「瀬戸芋子茶入(古瀬戸)  銘 「雨宿」」

中興名物「瀬戸芋子茶入(古瀬戸) 銘 「雨宿」」 室町~桃山時代(16世紀) 静嘉堂蔵

長谷川祥子さん(静嘉堂文庫美術館 主任学芸員)見どころコメント
「静嘉堂の“大名物”茶入 7点は、すべて明治期、彌之助さんの時代に購入されていたものでした! 宝物級の道具の多くは明治期に動いたのでしょうか-。それぞれの購入の好機を逃さなかった彌之助さんの判断力は卓越していました。」


 比べて観ることで初めて分かる茶入の奥深さをこの秋、丸の内の静嘉堂でじっくり味わってみましょう。

特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」
会期:
2024年9月10日(火)~11月4日(月・振休)
※会期中一部展示替えあり 前期9月10日(火)~10月6日(日)/後期10月8日(火)~11月4日(月・振休)
会場:
静嘉堂@丸の内(明治生命館 1 階)
〒100-0005 東京都千代田区丸の内 2-1-1 明治生命館 1階
休館日:
毎週月曜日(ただし9月 16日・9月23日・10月14日・11月4日は開館し翌火曜休館予定)
開館時間:
午前10時~午後5時
※土曜日は午後8時まで/第4水曜日は午後 8 時まで※入館は閉館の 30 分前まで
入館料:
一般 1,500 円※お着物の方は一般料金の200円引。他の割引との併用は不可、大高生 1,000 円、中学生以下無料
問い合わせ:TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
ホームページ:https://www.seikado.or.jp
X: @seikadomuseum
Instagram: seikado_bunko_artmuseum
主催:静嘉堂文庫美術館(公益財団法人静嘉堂)

この連載の記事